【日経バイオテクONLINE Vol.3008】

失敗した研究を共有する仕組み

(2018.09.19 11:00)
橋本宗明

 皆様、こんにちは。日経バイオテクの編集長の橋本宗明です。まずはセミナーのご案内をさせていただきます。

 当社では、「技術者塾」というブランドで、幾つか技術系のセミナーを開催しています。そのシリーズの1つで、「バイオテク編」として、9月21日にセミナーを開催します。テーマは「創薬R&Dにおける新たな試み」。創薬をテーマとする、日経バイオテクノ読者の皆様にとってどんぴしゃのテーマです。武田薬品工業の湘南研究所からスピンアウトしたアクセリード ドラッグディスカバリーパートナーズの池浦義典代表取締役社長、独自の抗体薬物複合体の技術を有し、癌領域での飛躍が期待される第一三共の赤羽浩一研究開発本部オンコロジー統括部長、製薬企業としてはいち早く再生医療分野に乗りだして、iPS細胞由来再生医療等製品の開発に取り組む大日本住友製薬の岸野晶祥再生・細胞医薬神戸センター長に登壇いただきます。創薬の課題を解決するヒントを提供できればと考えています。2018年9月21日(金)13:00~17:00(開場12:30)まで、東京・神谷町の日経BP社本館5Fセミナーホールで、エルゼビア・ジャパンの共催で開催します。

https://www.nikkeibp.co.jp/seminar/atcl/med/180921/

 さて、2週間後には今年もノーベル賞ウイークがやってきます。10月1日にはノーベル生理学・医学賞、3日には化学賞が発表されます。

 今年は日本人の受賞はあるでしょうか? 今年も日経バイオテクでは、バイオ分野の日本人研究者の受賞があるかどうか、読者の皆様にアンケートを実施しています。ぜひ、下記からアンケートにご回答ください(回答はお1人様1回に限らせていただいています)。

https://aida.nikkeibp.co.jp/Q/C030054am.html

 もう二十年以上も前のことですが、ノーベル賞受賞者である江崎玲於奈さんにインタビューしたときに、「巨人の肩の上に立つ」という言葉を聞きました。偉大なる先人の研究者の業績が積みあがっているからこそ、新しい発見や発明ができるのだ、という趣旨だとそのときは理解したのですが、「巨人」というのは「偉大な研究者」に限られるのかと、ふと疑問を感じました。

 先日、ある研究者からこんな話を聞かされました。「米国の研究所で、高速道路の工事現場を見下ろしながら同僚と話をしていたときに、その同僚が『あの職人さんたちの仕事は1つ1つ積み重なって後世に残る高速道路ができあがる。そこには無駄な仕事は何1つないのに、研究者である自分たちの仕事は、結果を出さなければ何も残らない』と嘆いていた。それを聞いて、どうすれば後世に残る仕事ができるのか、と考えるようになった」。この研究者はそう考えて、とある研究に取り組むわけですが、その話はまた別の機会に紹介することにします。この話を聞いたときに私が思ったのは、研究者の仕事(1つ1つの実験など)は、論文などで発表する機会がなければ残らないものなのか、ということです。だからこそ論文などにできたときには大きな達成感があるのかもしれませんが、思わしいデータが取れないとモチベーションを維持するのが難しいことでしょう。

 ただ、思ったようなデータが取れなかった実験や、発表するには至らなかった研究も、決して無駄というわけではありません。そうした経験も次のテーマに取り組む際に、必ず役に立っていることでしょう。問題は、そうした経験が、個人の中にしか蓄積されていかないことです。

 バイオの研究に人工知能(AI)を活用するというテーマの講演か何かで専門家の方が、「論文のデータベースは質の問題もあるが、何よりも失敗したデータが入っていないので、学習するのに適していない」と言っているのを聞いたことがあります。なるほど、「こういう条件でこういうことをしたら期待したデータは得られなかった」というのも貴重な情報です。成功と失敗があるから学習は成り立つのでしょう。

 それを思えば、期待したデータが得られなかった実験も含めて、全ての実験データをプールしていくような仕組みがあれば、科学はもっと速い速度で進展していくのではないかという気もします。もちろん、品質をどうそろえるかなど、課題も多々ありそうですが、「失敗を共有する」ための何らかの仕組みはあってもいいように思います。ノーベル賞ウイークを前にそんなことを思いました。

日経バイオテク お薦めの専門書籍・セミナー

  • 新刊「世界の創薬パイプライン2018/2019」
    海外ベンチャーの創薬プロジェクトを大幅拡充。自社の研究テーマと関連するパイプラインの動向、創薬研究の方向性や競争力、開発状況の他社比較に有益なデータとして、自らのポジショニングを確認できます。
  • セミナー「低分子薬で核酸を標的に」
    2018年12月5日開催!核酸を創薬標的とした低分子薬の創薬研究に携わっているベンチャー企業やアカデミアの専門家を迎え、最新の研究開発状況、創薬手法、創薬の課題を考える。

PR・告知製品・サービス一覧人材・セミナー・学会一覧