【日経バイオテクONLINE Vol.2974】

ベンチャーと事業会社との距離感

(2018.07.27 12:30)
橋本宗明

 皆様、こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。先日、東京大学先端科学技術センター発のバイオベンチャー、ペルセウスプロテオミクスに取材してきました。同社は2001年に設立された老舗のベンチャーで、09年に富士フイルムの連結子会社となっていました。ペルセウスの取材を通して、事業会社とバイオベンチャーとの距離感について、つらつらと考えましたので、少しそのことに触れておきます。

 同社が富士フイルムの連結対象でなくなったのに気付いたのは4月か5月ごろのことです。何かの機会で同社のホームーページにアクセスして、日本ベンチャーキャピタル(NVCC)などのベンチャーキャピタル(VC)を割当先とする第三者割当増資がなされたことを知りました。

 バイオベンチャーの中には事業会社などから出資を受けているところも少なくありません。ただ、事業会社の連結子会社となってしまうと、会社の経営方針や今後の戦略については、経営者の意向よりも親会社である事業会社の考えの方が強くなってしまうため、その会社に直接取材する機会は減ってしまいます。もちろん、連結子会社でも経営陣に大きな裁量が与えられている場合はあるでしょうが、経営者の人事権も含めて親会社が握っているわけで、大きな方針については親会社に聞かなければ分からない、ということになってしまうからです。

 ペルセウスも我々の中では77%の株式を保有していた富士フイルムの一部門的な位置付けであり、昨年発行した「バイオベンチャー大全」でも、この会社のことは取り上げませんでした。ところが、富士フイルム以外のVCなどから資金調達し、一方で富士フイルムの有価証券報告書などで確認すると、ペルセウスに関する記載が一切なかったので、「何があったのか」と取材をお願いし、新経営陣の顔ぶれが固まる株主総会後に取材をさせていただいた次第です。

 他の製薬企業から見ても、共同研究や提携の話をする際に、事業会社の連結子会社となると親会社も交えて話をしなければならないなどの障害が生じるでしょう。ペルセウスの横川拓哉社長も、「連結子会社ではなくなったので、他の製薬企業などと交渉をしやすくなる」と話していましたが、オープンイノベーションの時代に一事業会社の連結子会社になってしまうことは慎重に考えた方が良さそうです。

 ただし、VCは株式上場後にキャピタルゲインを得るためにすぐに株式を売却してしまいますが、事業会社は株式を保有し続けてくれる可能性があります。そのため、安定株主対策の一環として、事業会社から一部出資を受けるというのは有効な手段だと思います。ただし、VCからは「相場を知らない事業会社がいったん高い株価で増資を引き受けると、VCは出資できなくなる」と指摘する声も聞きます。そうなると、そのときはよくても、次の資金調達に苦労することになるでしょう。結果的にその事業会社からしか資金調達できなくなり、気が付けば連結子会社になっていた、などという事態も生じかねません。

 幸いにも日本にもバイオに投資をするVCが増え、エコシステムが徐々に整いつつあるわけですから、ベンチャーは、事業の発展に応じて株価(=会社の価値)を徐々に高めながら資金を調達していくシナリオを描くべきでしょう。そして、事業会社もエコシステムの一員として、VCなどと一緒にベンチャーを育てていく役割を果たすことが期待されます。

 ちなみに、ペルセウスがVCから資金調達することに同意した富士フイルムですが、実はNVCCなどと一緒に出資をした会社の中には富士フイルムも含まれているとのことです。その狙いについて富士フイルムに確認はしていませんが、恐らくペルセウスを連結子会社としてその研究成果をまるごと手に入れるのはやめたものの、出資者としてキャピタルゲインはしっかりと受け取ろうということなのでしょう。もちろん、会社の事業内容や戦略によって、ベンチャーと事業会社の関係は様々な形があり、そのあり方を模索するのも経営者の腕の見せどころなのだと思います。

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