【日経バイオテクONLINE Vol.2855】

AI創薬の可能性と課題

(2018.02.02 08:00)
橋本宗明

 皆様おはようございます。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 先日、虎ノ門で開催されたCBI学会の講演会「創薬分野におけるAI活用の可能性と実際」というタイトルの講演会を取材してきました。AIによる産業革新への期待をとうとうと語った自民党・人工知能未来社会経済戦略本部の山際大志郎衆議院議員の講演から始まって、東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦教授、塩野義製薬の澤田拓子取締役上席執行役員、京都大学大学院医学研究科の奥野恭史教授、エヌビディアのColleen Ruan氏の講演と、最後まで興味深く、かついろいろ課題も感じさせられる話を聞けました。

 山際議員の講演は日本政府のAI戦略がテーマで、今やれば世界をリードできる分野として、ものづくり分野、モビリティ分野に並んで、保健医療分野を選び、「中長期的にサポートすると決めた」と強調していました。保健医療分野の重点領域の中に、画像診断支援やゲノム医療と並んで医薬品開発が挙げられており、AI創薬に関する国家プロジェクトが幾つかスタートすることを紹介していました。でもそれよりも興味深かったのは、中国が技術革新で飛躍的に発展を遂げつつあることを紹介しつつ、「(将来は中国に相手をしてもらえなくなるかもしれないが)今ならまだ日本に利用価値がある」「(規制でがんじがらめの日本でできないなら)中国と組んでやればいい」などと語っていたことです。確かに、新薬の創出という面では、グローバル市場で一定の存在感を確立している日本に比べ、中国の存在感はまだまだ薄いですが、基礎科学分野での論文の急増ぶりなどを見れば、いずれはこの分野でも中国の台頭は必至でしょう。今は創薬における中国との連携を模索するいい機会なのかもしれません。

 児玉教授は、2002年に開始した抗体プロジェクトがどのように変遷してきたかを紹介しつつ、ストレプトアビジンを改変したものと、抗体の可変領域との融合蛋白質を投与し、一定時間後にビオチンを改変したものに放射線核種を付けて投与することで、癌細胞だけを狙って殺す「プレターゲティング治療」を紹介していました。ストレプトアビジンとビオチンが強力に結合する性質を生かしたミサイル療法的な治療法で、ストレプトアビジンは抗体ができないようにヒト型化する一方、元々体内に存在する内在性ビオチンに結合しないように改変し、既にそれらの特許は成立しているとのことです。抗体薬物複合体(ADC)にも似た技術ですが、抗体よりもより速やかに排泄されるビオチンに放射線核種を付けることで、放射線核種による毒性をより抑えようというコンセプトで、創薬のプラットフォームの1つになりそうです。

 さてAI創薬の話ですが、AI技術は非常に面白く、創薬に貢献する可能性を大いに感じる一方で、各講師の講演や、フロアとのディスカッションを聞くとまだまだ課題が多いことを実感しました。何より誰もが強調していたのが学習するデータの問題です。昨年5月に公布された次世代医療情報基盤法が施行されれば企業は医療情報を活用しやすくなると言われていますが、どの程度の匿名加工がなされるのかなど、詳細な枠組みがまだ不明です。また、医療情報を何らかの形で活用できるようになるとしても、その質や標準化などの課題があります。アカデミアにおける医療やゲノムを含む各種のビッグデータの構築も、現状は研究の域を出ていません。ビジネスとして高く売れるからデータベースを作るという流れが出て来ないと、質や標準化は進まないのかもしれません。

 一方で製薬企業側にも課題はあります。塩野義の澤田取締役は、「製薬業界にはプレコンペティティブな情報は共有していこうという動きがあり、毒性試験のデータや、臨床試験におけるプラセボ群などののデータを共有する取り組みがグローバルでは始まっているが、日本での取り組みはまだまだだ」と指摘していました。情報を利用しようとするだけでなく、そこに自分たちの持つ情報を提供し、共有していこうというマインドが育たなければ、AIが学習すべき良質なデータ群はできないかもしれません。澤田取締役は「できあがったデータを購入する意識の企業が多いが、データ構築に参加し、どういうデータベースなら企業として使いやすいのか、情報発信していく必要がある」とも語っていましたが、まさにその通りだと思いました。

 そしてAI技術自体にもまだ課題はありそうです。何より、学習した中から答えを見いだす技術なので、セレンディピティを必要とする部分に使えるのか、という課題がありそうです。その課題を克服するために、京都大の奥野教授は「ドッキングシミュレーションを行なってその結果を学習させていく」と提案していましたが、その場合はシミュレーションの精度が問題になりそうです。つまり、シミュレーション結果が間違っていたら、間違ったデータを学習してしまうことになります。生体反応という、不純物がたっぷりと混じったあいまいなものを、どこまでデジタル化できるのかがポイントになるように思いました。

 ただ、いずれにせよ既に良質な大量のデータがあるところでは、そのデータを学習させることで人間がやる作業は大幅に効率化できそうです。AI創薬の今後の発展から目が離せそうにありません。

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