【日経バイオテクONLINE Vol.2848】

大きなショックを受けたCiRAでの研究不正

(2018.01.24 10:00)
橋本宗明

 こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。首都圏の大雪による混乱は収まったようですが、これから過去最強クラスの寒波が全国を襲うと予報されており、特に日本海側では大雪への警戒が必要なようです。皆様どうぞお気をつけください。

 一昨日に京都大学が発表した京都大学iPS細胞研究所(CiRA)の研究者による研究不正の発表には、大きなショックを受けました。CiRAの山水康平特定拠点助教が責任著者を務めた人工多能性幹細胞(iPS細胞)に由来する細胞を用いて血液脳関門モデルを作製したとする論文において、調査の結果、論文を構成する主要な図6個全てと、補足図6個中5個に捏造や改ざんがあったと認定されたというものです。詳細は記事でお読みください。

京都大、CiRAの血液脳関門モデルの論文で捏造、改ざんを認定
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/01/23/03770/
 CiRAのような日本をリードする研究組織で不正があったというのは大変残念なことです。ただ、ショックを受けたと言うのは、別にCiRAでは不正など起こりえないと思っていたというわけではなく、CiRAにおいても不正が発覚するほど研究不正がアカデミアの中で蔓延している事実を目の当たりにしたからで、正直、驚きを隠せません。

 京都大による調査の結果、不正行為に関与したのは、測定結果の解析や図の作成を担当した山水助教のみで、同論文の共著者の不正行為への関与はなかったとのことです。ただしそれでも京都大では、今後、関係者である山水助教、論文の共著者である増殖分化機構研究部門の山下潤教授、山中伸弥所長の処分を総長が検討するとしています。1月22日に記者会見したCiRAの山中所長は辞任する可能性があるかと問われて否定しなかったことから、「山中所長が辞任も検討」などとする報道も見られましたが、これにも違和感を覚えました。

 確かに、CiRAではこれまでに担当部署による実験ノートの検認や、論文の最終稿に関するデータ提出のルール化などの対策を行ってきたとしていますが、それでも研究不正を防ぐことができなかったわけで、その意味では組織のマネジメント体制などに課題があるのは確かでしょう。組織の管理責任を負う人が、研究不正を発生させないためになすべきことは多々あると思いますが、「管理責任を問われて辞任」と言われると、それが果たして解決策になるのかと疑問を感じてしまいます。

 組織ぐるみで捏造や不正、その隠蔽が行われていたならば話は別です。ですが今回の件は調査の結果、不正に関与していたのは個人の研究者のみとされているわけで、問われるべきは不正に手を染めた研究者の倫理観の欠如です。不正に関わった人は厳罰に処されてしかるべきでしょう。研究不正が相次ぐ背景には、研究者の雇用や評価、資金配分の在り方といった構造的な問題があるという指摘もあり、それも理解はできますが、だからと言って研究不正が許されるわけではないし、言い訳にもなりません。そもそもこれほど研究不正の問題が指弾されているのに、なお不正が頻発することが不思議でなりません。研究不正もやむなしという考えが、アカデミアの中に隠然としてあるのではないかと勘ぐってしまいます。

 それでなくてもゲノムサイエンスの進展により、研究者は生命倫理の問題に関わるような研究や、地域における生物多様性に影響を及ぼす研究に関わる可能性が生じており、より高度な倫理観が求められているはずです。にもかかわらず安易に研究不正をしてしまう研究者が後を絶たないという事実と、その背景にあるアカデミアにおける倫理教育、コンプライアンス教育の不徹底ぶりこそ大いに問題視したいと考えます。

 本日はこの辺りで失礼します。

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