【日経バイオテクONLINE Vol.2840】

AI活用の鍵は実験データにあり

(2018.01.12 10:00)
橋本宗明

 こんにちは。日経バイオテク編集長の橋本宗明です。

 先日、人工知能を活用したいわゆるAI創薬を開始すると発表したDeNAを取材する機会がありました。その内容は記事にまとめましたので、そちらをお読みください。ここではそのこぼれ話を少し紹介します。

DeNAライフサイエンスがAI創薬の共同研究を開始
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/18/01/11/03724/

 創薬へのAIの利用については、これまでに日経バイオテクでも幾つか記事を紹介してきました。

NVIDIAが「AI創薬」へ、ベンチャーと勉強会
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/news/p1/17/11/28/03541/

創薬で用いられ始めた人工知能
https://bio.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/082400017/100500018/

 標的蛋白質の立体構造の予測から、化合物の設計、構造活性相関やADMETの予測、治験の効率化など、創薬の過程でAIを活用できそうな場面は数多くありそうです。ただし、何を学習させるか、言い換えれば、学習の素になる大量の良質なデータをどうやって手に入れるかという問題があります。

 通常、ライフサイエンス分野でのAIの利用では、まずは公開されている論文などを学習するところから試みられがちですが、論文では基本的に成功したデータしか公開されていないため、失敗データに学ぶことができません。しかも、研究者によって実験手法が異なるなど、データの質にも大きなばらつきがあります。

 そこでDeNAではAI創薬のプログラム開発に乗り出すに際して、製薬企業の協力を仰ぐことにしました。「AIの基本はデータの質と量。企業内に蓄積されたデータを提供してもらえるかどうかが、今回の共同研究の鍵だった」と、製薬企業の出身で、現在はDeNAヘルスケア事業本部ビジネスデベロップメントディレクターを務める佐野毅さんは説明します。

 製薬企業の協力を得るために、AI創薬のターゲットを、製薬企業にとって最も財務的なインパクトが大きく、知財にも直結するリード化合物の最適化のステージとしました。製薬企業にとっては秘中の秘である実験データの開示を求めるために、遺伝子検査事業を通じて情報セキュリティマネジメントシステムの認証制度であるISMSを取得しており、開示された情報を外部に漏洩しない体制を作っていることを理解してもらったといいます。さらに、IT創薬のコンテストなどで優勝した経歴を持つ優秀な技術者を抱えていることも、製薬企業の協力を得る決め手の1つになったのでしょう。結局、リード化合物最適化段階の化合物の情報とその実験データを、旭化成ファーマと塩野義製薬という2つの製薬企業から提供してもらえることになり、AI創薬のプログラムを開発する共同研究がスタートすることになりました。両社が協力したのは、それだけAI創薬に対して期待しているということなのでしょう。

 もちろん、実際に創薬に要するコストと時間を短縮するようなAI創薬のプログラムを開発できるか否かは今後を見なければ分かりません。ただ、AIの活用により、リード化合物は見いだしながらも最適化がうまくいかずに開発が頓挫するようなケースが減少し、新薬が患者の下にスムーズに届けられるようになるのは歓迎すべきことです。これまで研究者の勘に頼っていた部分が、データに基づいてより合理的に行なわれるようになるとしたら、これもプレシジョンメディシンの1つの形態といえるかもしれません。いずれにせよ、AIの活用の鍵を握るのは量的、質的に十分なデータをどのようにして手に入れるかであって、実験データを作り出す作業無しに優れたプログラムを開発することはできないでしょう。「AIに仕事を奪われる」と危惧する声を聞きますが、むしろAIを育てるためにやることは山ほどありそうです。

 本日はこの辺りで失礼します。

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