キャリアアドバイザーの業務日誌(第7回)

「うちの求人には合わない」から逆転採用された理由

(2018.07.18 08:00)
髙橋学=リクルートキャリア エージェント事業本部 ヘルスケア営業部
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 「うーん、この方はこのポジションには絶対合わないでしょう…」

 私がX社にNさんを紹介した当初、X社の採用担当者はこう難色を示した。

 X社はヨーロッパに本社を置く製薬企業で、生活習慣病領域のトップメーカー。新製品の発売を前に、MSL(メディカル・サイエンス・リエゾン)複数名を募集していた(MSLとは、キーオピニオンリーダー(KOL)に対し、専門知識や医学的・科学的エビデンスを基に、医薬品の情報提供を行う職種)。

 X社が求めていたのは、MSLやメディカル・アフェアーズの経験者、かつ今回発売する新薬の適応症である生活習慣病領域の経験者。しかし条件にぴったり該当する求職者は限られており、数名は採用できたものの、目標採用数に届かない状況だった。

 「全ての条件は満たせていなくても、X社のMSLとして活躍できそうな人はいないか」――そこで、私が目を留めたのがNさん(30代半ば)だった。

 Nさんには一般企業に勤務した経験がない。しかも専門は癌領域だ。大学院を卒業後すぐにヨーロッパに渡り、研究機関で癌のバイオ医薬品の研究をしていたが、日本への帰国を望み、就職先を探していた。

 生活習慣病は専門外で、MSLの経験もない、ましてや事業会社で働いたことのないNさんが、X社の求める要件に一致しないのは、私も重々承知していた。しかし、バイオ医薬品の研究歴の長さから、幅広く応用できる科学的知見を身に付けていること、海外研究機関で様々な国籍の人との交流や議論を重ねてきたことは、MSLの職務でも生かせる可能性がある。そう考え、ダメモトでご紹介したのだった。

 X社は「とりあえず会ってみよう」と、Nさんと面接。そのフィードバックは次のようなものだった。

 「海外の研究者たちと対等にやりとりしてきた発言力と、変化への対応能力がすばらしく高い。グローバリゼーションが進む中で、当社には必要な人材です」

 こうしてNさんはX社に採用された。しばらくしてX社の担当者に会ったところ、Nさんは期待以上の活躍を見せているという。「フレキシブルに動いてくれる」「自ら積極的に発言してくれる」と医師からもMRからも評判は上々。社内でも、「お客様から吸い上げた声を的確に開発に伝えてくれる」と高評価を得ているそうだ。

 今回、採用の決め手の1つとなった「変化対応力」。この力を求めているのは、実はX社に限ったことではない。このところ、医薬品・医療機器ともに、グローバル大手による開発職やMSLの求人が右肩上がりに増えているが、求める人材要件に「変化対応力」「柔軟性」を挙げる企業は非常に多いのだ。

 近年は変化のスピードが速い。製品Aの開発に取り組んでいても、数年後には製品Bの開発に移っていかなければならない状況下で、フレキシブルに対応できそうかどうかが、人材の見極めのポイントとなっている。特定の経験の枠を出られず「これしかできません。やりたくありません」「それは私の領域ではありません」というスタンスの人は敬遠されてしまう。

 その傾向が特に顕著なのが医療機器分野。医薬品以上に製品開発のサイクルが短く、マイナーチェンジも頻繁に行われる。競合に新たな動きがあると、それに対抗すべく戦略が変わったり、開発方針の軌道修正がなされたりすることも多い。そんな場面でも、臨機応変に対応し、柔軟な姿勢で取り組んでいける人材を求めているというわけだ。

 また、Nさんの場合「グローバル対応」も高評価のポイントとなった。医療機器分野では不問の企業もあるが、大手製薬メーカーでは最低でもTOEIC700点レベル以上の英語力は「ほぼ必須」とされる。もっとも、TOEICスコアより「使えるかどうか」が重要であり、海外とのやりとりに対応できる力が求められている。

 こうした経験・スキル・姿勢があれば、Nさんのように「求人票に書かれている要件」の枠から外れていても高評価で迎えられる可能性はある。だから、興味がある企業があるなら「自分には経験がないから」と早々にあきらめないでほしい。少しでも相手企業と接点があり、自分の経験が生かせるかもしれないと思うなら、思い切ってチャレンジしてみるべきだ。実際、我々キャリアアドバイザーが企業に対し「こんな経験を持つ人がいます」と紹介したところ、募集していなかったポジションで選考され、採用に至っているケースもある。

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