キャリアアドバイザーの業務日誌(第3回)

国境の壁を越える転職活動

(2018.02.28 08:00)
リクルートキャリア LS & HCキャリアアドバイザー マネジャー 増間大樹

 「日本に帰りたいんです」

 米国在住のTさんから当社に相談のメールが届いたのは10月のこと。そこから電話とメールでの転職相談が始まった。

 Tさん(40代・男性)は日本の大手医薬品メーカーから、米国の同業界の企業へ出向赴任し、その後、グローバル化学メーカーに転職。創薬研究職に従事した後、直近は生物製剤のプロセス開発を手掛けていた。米国で約5年間暮らし、永住権も取得。キャリアも順調に積んでいるように見える。海外での就労を希望する方も多い中、「このタイミングで、なぜ日本に戻りたいのですか?」と問うと、こんな答えが返ってきた。

 「米国に渡ってから生まれた子どもがもうすぐ3歳になるんですが、このままでは日本語を喋れないまま育ってしまうんじゃないかと……。やっぱり日本人という自分たちのルーツは失いたくないんです。だからこの子は日本で育てたいんです」

 Tさんは現地の転職エージェントとも付き合いがあったが、日本勤務の求人案件は紹介してくれないとのこと。そこでリクルートエージェントに情報を求めたというのが、出会いの背景だ。

 私はこうしてTさんの経験を活かせる求人を探し始めた。しかし、当時の医薬品業界にはTさんの経験分野に注力している企業はまだ少なく、該当する求人が見当たらない。そこで、業界を広げ、「プロセス開発」及びそれに近いキーワードで求人を探してみると、意外な企業が浮かび上がった。大手素材メーカーのA社だ。

 当時のA社は事業領域拡大に乗り出しており、新規事業のプロジェクトマネジャーを求めていた。それはまさにTさんの経験が活かせるものだった。

 日本帰国後の居住予定地からの勤務も問題なさそうとのことで、Tさんは応募を決意、私はA社にTさんを紹介した。予想通り、書類選考の評価は上々。11月には人事が電話で1次面接。高評価での面接通過となった。

 早速次回面接の案内…となるはずだったが、人事担当者には戸惑いもあった。
「今まで遠方にお住いの方には電話面接をしてきました。でも、とは言え国内の方です。実は、海外在住の方の採用選考を今までしたことがないんです。」

 それでも、Tさんに対して、有望な人材と期待を寄せたA社は、何とかして面接できる方法を考えてくれた。

 そして12月上旬、事業部門長が米国に出張する際、わざわざ延泊してTさんが住む都市に立ち寄り、ホテルのラウンジで面接をしてくれたのだ。その場で通常の2次、3次面接に当たる段階まで話が進んだ。

 しかし、役員面接に関しては、どうしても日本で行う必要があるという。A社はTさんが日本に来る際の、航空チケット代を負担すると申し出てきた。さらに、Tさんが「年末年始、実家の両親に会いに行くタイミングで帰国したい」と告げると、A社は年末の営業最終日の夜19時、役員のスケジュールを押さえて面接を組んでくれた。

 「どうでした? 感触は?」

 初めて顔を合わせての挨拶の後、A社前のカフェでTさんに私は切り出した。

 「感触は良かったと思います。一緒に頑張ろうと明言いただけましたし、入社日等の具体的なお話にもなりましたので」

 「……役員の方がその場で明言されたのですか?」

 驚きである。

 ここまでの全てがA社にとっては異例も異例だ。その後正式に内定通知書が年明けに発行され、翌年2月、Tさんは家族とともに帰国し、4月にA社に入社した。

 今回のように、求人企業側にとって是非とも欲しい人材である場合、選考に融通を利かせてくれるケースは多い。面接担当者が応募者の居住地まで出張してくれることもあれば、面接に来るための交通費を支給してくれることもある。金銭でなく、時間の問題ということであれば、面接を電話会議システムやスカイプなどで行ってもらえることもある。「海外からの応募は難しい」などと思い込まないでほしい。

 もちろん、海外からの転職が難しかった時代があることは事実だが、上記のようにその壁も取り払われつつあるのも事実だ。自分の希望が実現できるのかどうか、素朴な疑問で構わないので、アドバイザーにご自身のキャリアプランを気兼ねなく相談してほしいと、私は切に願っている。

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