新春展望2018

エクソソームはBonum(善)かMalum(悪)か

(2018.01.03 08:00)
落谷孝広=国立がん研究センター研究所分子細胞治療研究分野長

 2018年は、ここ数年世界中で高まっているエクソソーム研究熱をそのまま引き継ぐ形で幕を開けた。今日も世界中のどこかでエクソソームの新しいベンチャー企業が創立され、世界の市場は大きくエクソソームに傾倒し、今年のエクソソーム診断・治療の市場規模は2800万米ドルに達する兆しであり、2020年までに最も成長する研究分野のひとつに挙げられている。

 それもそのはずだ。特に再生医療の分野では、間葉系幹細胞や組織ステム細胞、そして免疫担当細胞に由来するエクソソームの治験が100以上も走っており、セル・フリー・セラピーを掲げる新しい治療が大きく臨床に近づく気配だ。こうしたBonum(善)の性質を示すエクソソームに対して、疾患に起因して放出されるエクソソームの機能はMalum(悪)であり、例えばがん細胞は、転移や薬剤耐性などの仕組みをこのエクソソームを介して見事に機能させることで、患者の体内で生き延びる手段としている。

 患者を死に至らしめるがん転移の新たな実態がエクソソームを通して理解されはじめたことで、Malumであるがん細胞のエクソソーム分泌や機能を阻止する研究があちこちで芽生えている。この流れを創薬に着実に結びつけることができれば、がんになっても、がんと共存する社会の実現に一歩近づくだろう。

 さらに、がんを血液マイクロRNAで早期に発見する、いわゆる血液一滴でがんを見つけることのできる技術も2018年中には実用化に大きく近づく。思えば2017年は体液診断の幕開けであり、国民の期待も大きい分野である。がんだけでなく認知症などのあらゆる疾患をわずかな血液で発見し、早く治療、予防することの意義は、医療費削減という国の大きな課題のみならず、2人に1人ががんに罹患する国民の切実な願いでもある。疾患にともなって血液などの体液中に現れるアナライトは、マイクロRNAだけではなく、代謝産物や特定の遺伝子変異を持つDNAまで様々であるが、こうした生体の細胞の発する情報はエクソソーム内外に装填されて分泌され、体液中を循環している。つまりエクソソームは疾患の情報源であり、診断としての利用価値も高い。これらの新しい研究を通して、我々が向かおうとしている先は、未病社会、にある。

 今後、様々な技術革新のもとに、未病の状態を即座に発見し、病気になるのを食い止める、そして健康を取り戻す社会の実現にむけて、皆が叡智を結集すべき時だ。その意味でもエクソソーム研究の動向から2018年も目が離せない。

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