新春展望2018

ゲノム編集ー観察から操作する時代へ

(2018.01.03 08:00)
畑田出穂=群馬大学生体調節研究所附属生体情報ゲノムリソースセンター・ゲノム科学リソース分野教授

 2018年に映画「ジュラシック・パーク」シリーズの映画第5作「ジュラシック・ワールドII」が公開される。

 1993年にスティーヴン・スピルバーグ監督の第一作を観たとき映像とストーリーの斬新さについてすばらしいと思ったが、科学的な実現性に関してはありえないと感じた。映画では琥珀に閉じ込められた蚊の中から恐竜の血液DNAを回収し、足りない部分はカエルのDNAで補ってゲノムを復元し、それを用いて恐竜を復元するというものだ。実際には蚊ではなく羽毛恐竜の血液を吸ったダニが琥珀からみつかったというニュースが先月あったのは記憶に新しい。現在でもありえない話かもしれないが、当時感じたのは、少なくともゲノムをそんなに簡単に操作することは無理ということだ。

 あれから四半世紀たった今、2012年の「CRISPR/Cas9ゲノム編集法」の登場によりゲノムを自由に操作できる時代が来た。また2016年には「The Genome Project-Write」という人工的に合成したゲノムを細胞に組み込み、機能させることも想定した計画が発表された。

 これまでの生命科学は、観察し情報を読み取るアプローチが研究の主流であったが、今世紀初頭の次世代シーケンサーの登場により「The Genome Project-Read」ともいえる観察研究は円熟期に達し、これからはまさにゲノム情報を操作、あるいは再構成する「The Genome Project-Write」ともいえる時代が始まりつつある。

 昨年もゲノム編集の領域では様々なことがあった。マウスを用いた癌や遺伝病の治療研究で、CRISPR/Cas9による治療法の成果が続々と報告された。さらにCRISPR Therapeutics社は、CRISPR/Cas9によりゲノム編集した自家造血幹細胞をβサラセミア患者に適用する治療(CTX001)の臨床試験を今年から実施する予定である。今後、治療法の開発は加速化されるであろう。

 また議論になった話題であるが、オフターゲット効果が予想外に多いという報告もあった。その真偽はともかくやはりオフターゲットはゼロというわけではないので、より安全な技術開発は重要であろう。そういう意味で切断活性欠損型Cas9であるdCas9に様々な酵素をつなげたシステムは重要になってきている。Cytidine deaminaseをdCas9につなげて塩基置換を誘導する方法がその1つである。またdCas9にエピゲノム酵素をつなげたり、リクルートして遺伝子のスイッチの状態を変える方法もある。今後、様々な新技術がこの分野で出現することが予想される。

 CRISPR/Cas9を使った遺伝子編集技術についての一連の特許権に関するブロード研究所とカリフォルニア大学の争いでは、米国特許商標庁はブロード研究所にひとまず軍配を上げたことも大きな話題となった。今後の各国における特許の動きも見逃せない。

 今後、医療・産業分野での技術開発競争が加速化されるだけでなく、例えば昨年CRISPR/Cas9を利用した記録媒体の開発などの報告があったが、このような新分野との融合も新たに生まれて来る可能性がある。従来分野における開発だけにかまけることなく視野を広くもって研究に向かう必要がある。

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