2015年の当社グループを振り返った時、特筆すべき点は当社起業のバイオベンチャー、Wave Life Sciences Ltd.(Wave社)が米国ナスダック市場に上場し、その時価総額が500億円を越え、200億円以上の資金調達に成功したことです。その結果、Wave社における当社保有株式の含み益も100億円を越えて推移しています。日本の証券会社の人々からは、日本のバイオベンチャーが米国ナスダック市場に上場し、これだけ高い評価を得たという話は極めて稀だと言われました。

 Wave社は、ハーバード大学グレゴリー・バーダイン教授のアィデアに基づき、2008年に東京大学柏キャンパスに隣接するインキュベーション施設に東京大学和田猛准教授(現・東京理科大教授)と共に、オリゴ核酸医薬の立体制御技術の実用化を目指してキラルジェン社(当社株式比率95%)を立ち上げた事に始まります。続いて2009年にバーダイン教授と共に同技術を医薬品開発に応用するためにONTRII社(当社株式比率80%)をボストンに設立しました。その後、高機能キラル核酸誘導体の創出、リン原子の立体を制御した光学活性核酸医薬製造技術の開発、同技術を核酸医薬品に応用するための細胞膜透過性の向上などをメインテーマに、日米双方にて研究開発を続けてまいりました。

 2012年、それまで日米で各々培ってきた研究開発成果に基づき事業を本格的に展開する上で重要な知的財産の強化に目処が立ったことから、両社を経営統合し新たにシンガポールにWave社を設立、研究所をボストンと沖縄に置くという体制にしました。2013年にはWave社を独立したバイオベンチャーとして事業成長させるため、新たに最高経営責任者(CEO)として、Paul Bolno氏を採用しました。Bolno氏は、ベンチャーキャピタル(Two River Group Holdings)にてライフサイエンス部門の事業投資を経験した後、グラクソスミスクライン社(GSK社)でがん領域の事業開発責任者およびアジア部門の事業開発責任者を歴任しており、医師(米国)の資格を有します。

 2014年には、当社のメインバンクである鹿児島銀行系ベンチャーファンド(かごしま新産業創生投資事業有限責任組合)からの投資を受け、Wave社を当社の持分法適用会社としてスピンアウトさせました。2015年には、RA Capital(ライフサイエンス系ベンチャー企業を非上場から上場後まで継続的に支援するクロスオーバーファンド)の投資を受けた事で、株式上場(IPO)への布石が整い、その後、世界最大手の投資信託の一つであるFidelity Management and Research Company、ライフサイエンス系クロスオーバーファンドのForesite Capitalなど、上場企業を含めた企業に対して中長期的に継続した投資を行う大手機関投資家を中心に資金調達が行われ、昨年11月に米国ナスダック市場への上場を果たしました。上場時には、大手製薬企業のテバ社が約$30Mの株式購入を実施しています。

 なぜ、日本ではなく、米国ナスダック市場に上場したのかという点は、WaVe 社の核酸医薬に関わる合成技術は、非常に広範囲に活用出来る画期的なプラットフォーム技術であり、世界の複数のメガファーマが高い関心を寄せているため、米国という世界に直結するグローバルな金融市場で大手機関投資家にアピールしていくことが有効であるという背景があったからです。これに加えて、主な研究開発拠点がボストンにありCEOが米国を拠点に活動していたこと、当時の市場環境なども要因の1つです。

 実際、米国ナスダック市場の上場は、日本での上場とはいろんな面で異なっています。何より、バイオベンチャーが上場を行うためのサポート体制が非常に充実しています。日本では、社内にプロジェクトチームを組成して証券会社と打合せながら上場準備を1年以上かけて行っていくのが通例です。一方、米国では、株式上場に必要な管理作業を独立したプロフェッショナル集団が代行してくれるため、コア技術と事業コンセプトさえしっかりと確立されていれば、非常に短期間に効率的に上場する事が可能です。

 Wave社は、今回のIPOにより111.9百万USドル(発行株式総数:6,993,126株,発行株価: 16USドル/株)の資金を市場から調達し、昨年8月に行われた第三者割当増資(シリーズB: 66百万USドル)と合わせ200億円以上の資金調達を行いました。長年にわたってこの事業を支えてきた当社も、この資金調達により38億円程度の特別利益(持分変動利益)を今期計上する見込みです。また、Wave社時価総額は、公開価格($16/株)換算ベースで443百万USドル(約530億円)となり、当社財産も大きく伸張し、これまでの投資額(約17億円)を差し引いても100億円を越す含み益が存在する事になります。

 当社は、17年前、収益の柱である受託試験事業(CR事業)に加えて、自ら知財を創造して事業化するトランスレーショナルリサーチ事業(TR事業)を将来のメインとするパラダイムシフトに挑戦すると宣言しました。今まさにそれが実現しようとしています。仮に、CR事業で今回のTR事業利益を稼ごうとすると何年もの歳月が必要となります。
現在、Wave社はハンチントン病や筋ジストロフィーなどに適応させる核酸治療薬を開発しています。これらの疾患は、既存薬が存在しないか、あるいは限られた患者でしか治療法が確立出来ていない疾患です。幸い、原因となる標的遺伝子が明らかになっているため、Wave社の立体制御合成技術を用いることで、比較的短い期間に臨床段階まで開発を進めることができると思います。Wave社に多額の投資を行っているクロスオーバーファンド等の大手機関投資家は、現在の開発計画に従って年内にパイプラインのいくつかが臨床段階まで進むこと、併せて大手製薬企業との共同研究開発も含めて事業が進展することで、Wave社の時価総額がさらに大きく上昇していくことを期待していると聞いております。
 2016年の展望としまして、当社は、受託研究機関として核酸医薬の開発には豊富な経験を持っており、Wave社の開発する核酸医薬品の前臨床段階から臨床段階にわたって、CR事業を通じて開発支援を積極的に続けてWave社の価値増大に寄与して行きます。
 今後、当社は、コア・コンピュタンスのパラダイムシフトを加速化し、TR事業による収益貢献度を高めて行くことに注力します。TR事業の一つとして、従来から研究開発を重ねてきた独自のプラットフォーム技術である経鼻薬剤投与システム(NDS)は、その適応領域が幅広く、中枢作用薬やワクチンへの応用も可能であることから、海外の製薬企業からも高く評価されております。2016年は、NDSのパイプラインのいくつかをWave社同様のスキームでアメリカにおいて事業展開し、将来の収益基盤の布石とする予定です。