長期収載医薬品の後発品への切り替えを政策的に推する一方で、後発品自体の薬価は低く抑え込まれ、新薬についてはイノベーションを促進すると言いながら大ヒット薬になると特例再算定の対象として薬価引き下げの憂き目にあう──。2015年度の上半期までは円安の恩恵もあって、国内製薬企業は軒並み好業績を示していましたが、2016年度の診療報酬改定と薬価制度改革を見通して、八方塞がりになりつつあると感じている関係者も少なくないでしょう。

 この状況をもたらしたのは、言うまでもなく日本の逼迫した財政事情です。団塊世代が後期高齢者となる2025年に向けて、財政的にも仕組みとしても持続可能な社会保障制度にすることが、政府にとって大きな課題になっています。中でも医療は高齢化による自然増が避けられないだけに、より効率化して低コストで運用できるよう、様々な施策が進められています。例を挙げると、入院医療では病院の高度急性期病床を慢性期、リハビリ用の病床に転換しつつ、入院患者の在宅療養への移行を図り、外来医療では大病院ではなく主治医機能を有する地域の医療機関を受診するように促す、医療と介護、住宅、予防、生活支援などのサービスを連携して高齢者を支援する地域包括ケアシステムを自治体ごとに構築する、保険薬局の一部を健康サポート薬局と位置付けて地域住民の健康維持・増進を支援する機能を担わせる、といった具合に、医療提供体制全体の機能分化と連携の再構築が進められています。医薬品に関しては、前述した後発品の使用促進のほかにも、残薬や重複投薬の削減といった無駄の排除、保険給付範囲の見直しなども議論に上っています。日本の医療制度は、今、大きな変革期にあるといっていいでしょう。

 製薬企業のビジネスモデルが、医療提供施設に医薬品を供給するだけというこれまで通りのものならば、医療の効率化、低コスト化や、費用対効果向上を求めるこれらの改革は向い風に映ります。医薬品事業を出口とする多くのバイオベンチャーにとっても同じでしょう。しかし、見方を変えればこの変革期には、大きなビジネスチャンスがあるはずです。

 そのヒントの1つが、大塚製薬と米Proteus Digital Health社とが昨年9月に米食品医薬品局(FDA)に対して承認申請した医薬品と医療機器のコンビネーション製品。エビリファイ(アリピプラゾール)の錠剤中に小型センサーを入れた製品で、この錠剤を服用するとセンサーがシグナルを発し、患者の体表面に貼り付けた小型検出器でそれを検出して、いつ服薬したかといった情報をスマートフォンの端末などに転送して、医療従事者による適切な薬物治療管理に利用されます。この製品がどの程度医療現場で受け入れられるかはまだ分かりませんが、慢性疾患、とりわけ精神疾患において問題になりがちが服薬順守(コンプライアンス)をこの技術により確実にできることが実証されれば、医療費効率化に寄与する製品として活用されることでしょう。

 あるいは、日本では2014年4月より、薬局店頭で患者が自己採血したサンプルを用いて血液検査が行なえるようになりましたが、このサンプルを用いて薬物の血中動態のモニタリングができるようになれば、服薬状況を薬剤師が確認して、適切な薬物療法を指導できるようになるかもしれません。薬物治療の費用対効果がより求められる時代に、製薬企業としてはこれまでのように薬を売りっぱなしにするのではなく、服薬管理をしやすいシステム、コンプライアンスを向上できるシステムに組み入れて薬剤を提供していければ、そのマーケットは拡大していく可能性があると思います。

 医療の効率化、低コスト化、費用対効果の向上を目指す上では、デジタル医療、デジタルヘルス分野の技術がカギを握ると見ています。各種の生体シグナルを計測できるセンサーを用いて、体の状態を常時モニタリングすることができれば、薬物治療の効果をより適切に評価できる可能性があります。電子カルテをはじめとする各種の医療データを分析することによって、費用対効果を適切に評価し、医療技術や医薬品などを改良したり、新製品の開発につなげたりできるかもしれません。

 これまで医療産業は、医薬品や医療機器のメーカーと、その流通に関わる卸業、医療サービスを提供する医療機関とに分業して、高い品質の医療を提供をしてきたわけですが、効率化、低コスト化を図らなければならないこれからの時代は従来の分業体制ではなく、メーカー、流通、サービス機関、さらにその先の患者までを情報ネットワークでつないで、医療現場のニーズ、患者のニーズに基づいた医薬品、医療機器、医療技術を、必要とする患者に効率よく届ける仕組みを考えていく必要があるでしょう。その過程で、業種の壁を越えた合従連衡や再編が起こる可能性があります。そしてこの変革は、日本だけでなく、オバマケアによりやはり医療の効率化が求められている米国をはじめ、人口高齢化と医療費の高騰が問題になっている世界中の国々でも進むはずです。

 こうした医療産業全体の大変革期に、業種を越えた連携をリードし、より高品質の医療を、より効率よく、低コストで患者に提供する仕組みを提案できれば、大きなビジネスチャンスをつかめるのだと思います。従来通り、製薬企業は画一的な医薬品を製造して供給するだけ、バイオベンチャーはその研究開発の役割を担うだけというやり方で生き残れないとは言いませんが、じり貧になっていくのは必至です。読者の皆様が、変革期の風を捉えて大きく羽ばたくことを期待しています。