2015年は、日本の創薬ベンチャーと製薬会社との提携件数が過去最高となりました。いちよし経済研究所では、契約一時金、マイルストーン、ロイヤリティが得られる契約、または、年間の金額が1億円を超える委受託契約を提携と定義し、その件数を集計しています。2007年頃までの件数は年間2~3件でしたが、2008年以降はオープンイノベーションの流れを背景に、7件ペースに増えました。ところが2015年は、これが16件に跳ね上がったのです。しかも、その半数以上の契約先が欧米大手製薬会社というのも驚きです。

 ペプチドリームのNovartis社、Merck社、Sanofi社、Genentech社、そーせいグループのAstraZeneca社、Teva社、Pfizer 社、カルナバイオサイエンスのJohnson & Johnson(J&J)グループのJanssen Biotech社、インタープロテインのIpsen社との各契約がそれです。いずれも独自の創薬基盤技術がベースとなっている点で共通しており、基盤技術による共同研究開発契約あるいは基盤技術を活用して創製した新薬候補物質による契約となっています。これらの成果は、日本の創薬ベンチャーがもつ創薬基盤技術に対する世界的な評価が高まっている結果にほかなりません。

 2015年はM&Aも目立ちました。代表は、そーせいグループの英Heptares Therapeutics社(Heptares社)の買収です。買収金額は最大400百万ドル(株式取得対価180百万ドルと条件付き対価最大220百万ドルの合計)で、これによりそーせいグループはHeptares社がもつGPCRを標的とする創薬基盤技術と、それを活用した新薬候補物質を手に入れることができました。この買収効果は上記の欧米大手製薬会社との契約締結という形で既に現れており、契約一時金または出資という形で資金を獲得しています。ほかにも、カイオム・バイオサイエンスによる抗体医薬ベンチャーのリブテックの完全子会社化がありました。両社の抗体技術のシナジー効果を狙ったものです。

 2015年の成果で特に注目したいのは、カルナバイオサイエンスの契約です。同社は2月に小野薬品工業と大規模委受託契約及び共同研究契約を締結し、6月にJ&Jグループに新薬候補物質をライセンスアウトしました。前者は同社にとってこれまでにない大型契約となり、後者は新薬候補物質でライセンス契約を締結した初のケースとなりました。しかもライセンス契約の相手が欧米ビッグファーマの関連ということも、多くの投資家を驚かせました。同社は2003年に設立され、その後2014年12月期まで12期連続赤字決算を続けてきましたが、これら2つの契約により2015年12期は設立以来初の黒字決算になる見通しです。赤字決算を脱するのに手間取った最大の理由は、同社の基盤技術が低分子医薬品の創出を目的としたものだったという点にあると見ています。バイオ医薬品と違い製薬会社が豊富な経験をもつ領域ですので、ハードルが高かったと推測します。そうした苦労が実り、製薬会社が技術の有用性の高さを認めてくれたのが、今回の契約締結といえるでしょう。

 新技術に対する製薬会社のニーズの高まりを背景に、2016年も日本のバイオベンチャーと製薬会社との提携の活発化が予想されます。創薬技術や治療技術に対する欧米大手製薬会社などの関心領域は広がる一方です。特にペプチド医薬や核酸医薬に関する技術への需要は高く、世界的に契約が増加しています。さらに最近は、ウイルス療法、細胞療法、遺伝子治療などへの注目度も増してきました。これらは従来の医薬品とは性格が異なり、これまで製薬会社の関心の薄かった領域ですが、有効性次第では大きな契約金が動くようになりました。日本には長年こうした領域にこだわり、技術やノウハウを蓄積してきたバイオベンチャーがいくつも存在します。例を挙げれば、タカラバイオ、オンコリスバイオファーマ、アンジェスMG、サンバイオなどです。彼らの長年の苦労が報われる日は近いかもしれません。

 意外な技術が突如としてビッグビジネスになるのが昨今の状況です。先入観をもたず、世界の情勢をこまめにフォーローしないとバイオビジネスの新たなトレンドを見誤りかねません。2016年もサプライズ感のある提携事例に期待します。