株式会社ヘリオスは、2011年2月24日に産まれた。当社は「生きるを増やす、爆発的に」という使命の下、再生医療の世界でのデファクトスタンダードを確立する事をビジョンとしている。

 それ故、あらゆる人の持つ概念の根底にある「時」の概念を世界標準として司る、グレゴリオ暦が設定された429年後のこの日に設立した。現在、そのグレゴリオ暦の中でも標準時間となるグリニッジ天文台のあるイギリスにて、この文章を書いている。

 2015年は紛う事もなく、再生医療元年であった。環境としては、2品目の承認(本承認、条件付き承認)並びに薬価の確定があり、これからの産業のスケールを規定する「他家」製品の薬価と承認条件が決まった事は、極めて大きい。再生医療産業が伸びる右肩上がりの投射確度が確定したとも表現できる。

 産業界に渡された仕事は、どのアンメット・メディカルニーズ(医薬品で治らないもしくは再発が多い)を、どの細胞(組織)で治療する事が出来るかという仕事である。政府、産業界の歯車は噛み合い、回り出した。背景にある高齢化による医療費の増大という、「何故」この産業が成立しないといけないかという明確な理由が厳然とあり、それ故、産業界が医薬品のコストを圧縮できる、もしくは今治らない疾患が再生医療で治せるという解決策を提示出来る限り、この歯車は回り続けるであろう。着実な足元の固まりを実感出来た年であった。

 足下では、理化学研究所で行われた世界初のiPS細胞を用いた加齢黄斑変性の患者さんへ対する色素上皮細胞移植の結果、安全性に問題は無く、再発が極めて多いこの疾患で15か月経っても再発が見られないという結果が得られた。これは世界で8000億円を超える抗VEGF薬の売り上げの中、その約90%が再発に対する定期投与に対して占められている事を考えれば、今後、再生医療で、加齢により機能が失われた細胞をより機能の保たれた細胞で置き換えるという極めて単純な作用メカニズムにより、多くの医薬品が必要無くなる事で、医療費の大幅な圧縮が期待出来る。新たな医薬品クラスの台頭であろう。また、これらの治療方法を世界中の患者さんへ届ける為に必要な資金も、2015年6月16日の東証マザーズ市場への株式公開により確保する事が出来た。この場を借りて、これまでご指導ご鞭撻頂いた皆様には、心から感謝の念を述べさせて頂きたい。

 再生医療の置かれている現状を、私は以下の様に見ている。まず、国家的にはこれは1972-1980年に経験したオイルショックと同じ現象と似た状況と考えるとよい。

 世界に先んじて最も厳しい高齢化を迎える我が国が、その中でリーダーシップを発揮し正攻法で産業を育てようとしている。日本政府は極めて明快で世界をリードする法整備を整えた。

 これ程のドラスティックな変化を、一見静かに(国民の視点から見て)起こせたのは、当然、超党派の協力、各省の協力、アカデミアの協力があったからであるが、その底にある、山中伸弥先生の類まれなるお人柄による所が大きいと考えている。

 ある尊敬する経営者の方に且つてこう教えて頂いた事があった。「鍵本社長、経営というのはね、空気感だよ」。実に深い言葉である。数万人の社員を抱える時、あるいは国家経営となると、具体策もさる事ながら組織全体を覆う、姿の見えない空気感に支配される。

 山中先生は、皆が応援したい、再生医療を進めたいという空気を見事に生み、そして育てて来られた。その風の中で産業界は着実に治療法を開発し、次に高齢化を迎え、同様の問題が発生する国へ再生医療を提供して行かなければならない。

 医療をこのまま国際収支上コストセンターにするのか、あるいはプロフィットセンターにするのか、これが今、再生医療に関して産業界に問われている問いである。

 結果、産業が育つかどうか、私は概ね楽観的に捉えている。それは根本的に細胞自体の持つ開発リスクの低さがある。低分子や抗体と違い、そもそも細胞であり、免疫学的な差異を除いては、医薬品に比べれば圧倒的に副作用を初めとする開発リスクが少ない。一方、世界中で再生医療関連のイノベーションの速度が上がっている事も特記すべきである。

 iPS細胞やそれを置き換える研究自体というものは、そう多くは無く、むしろ臨床応用のイノベーションが主体となり、各臓器をいかに作るかへ主軸は移行しているが、ある臓器では日本がリードしているものの、ある臓器では他国の研究所が既に先をこしている部分も多くある。

 「イノベーションは散発する」。これは、古来からどうしようも無い事実であり、世界中の人と才能の集まる場所で散発的にこれからも生まれるであろう。産業界はそれを見極め、動く必要がある。メガファーマの細胞医療への参入も方々で見えてきている。旧来の創薬ビジネスの成功確率が落ち、既に多くの製薬企業が、規模の追求から、これから伸びる領域への集中と舵を切った。仮に細胞医療が花開くとすれば、医薬品市場の変化を止める事は難しく、それぞれの企業の資本の原理に従い、取り込むか否かという判断をこれからの10年間のどこかでするのであろう。

 2016年は、2015年の延長である。矢は既に放たれた。放物線に従い力強い成長を描くであろう。高みに上る放物線は主に2種類あり、先に他家間葉系幹細胞(急性期疾患→慢性期疾患)を中心とした放物線が描かれ、次により根治療法となる他家iPS細胞を中心とした組織細胞「置換」によるより大きな放物線が描かれるであろう。再生医療が国家の根幹となる基幹産業となるかどうか、常に各方面に細部に気を配った舵取りが必要であろう。