新年明けましておめでとうございます。新しい年の始まりにあたり、様々な意味で「壁を超える」という決意を新たにしたいと思います。

 ノーベル賞を多く輩出するなど元気な名古屋大学で、2015年、世界でも類を見ない新しい研究所のビルが完成しました。トランスフォーマティブ生命分子研究所(ITbM)と言います。「トランスフォーマティブ」とは「世界を変える」という意味です。生物学と化学の最先端での本気のミックスにより、生命科学や技術を根底から変えるような革新的な分子を作り出すことを目指します。生命を理解し、制御し、可視化するための様々な分子です。

 ITbMには、研究室の壁がありません。動物科学、植物科学、合成化学、理論化学の研究者や学生が、同じ空間を共有します。研究室の壁や、分野の壁を越えて、研究を推進します。その成果が、既に現れ始めました。アフリカの穀物に年間100億ドルもの損害をあたえる寄生植物ストライガ、その寄生の謎を解くための光る分子の開発は2015年にScience誌に掲載されました。最近のノーベル化学賞に輝いた超解像顕微鏡、その強いレーザーを照射してもほとんど退色しない「超耐光性」蛍光分子の開発にも初めて成功し、世界から大きな注目を浴びています。

 いま私が目指しているのは、生殖における種の壁という重要な問題を、合成化学も駆使して具体的な分子動態として理解し、制御することです。農業や自然環境において、種の壁を越えた交雑による新種植物の誕生は、これまで試行錯誤や偶然に頼るしかありませんでした。バイオ燃料がとれる西洋ナタネ、三大穀物の一つであるパン小麦も、交雑で生まれた画期的な新種です。私はこの5年間、ERATOライブホロニクスというプロジェクトを率いて、植物生殖の鍵分子を次々に同定してきました。植物科学とナノ工学の異分野融合により展開してきたこのプロジェクトを基盤に、さらにITbMにおいて合成化学とも一体となって、種の壁に挑みます。

 壁を超えること、それは、新しい世界の扉をひらくことに他なりません。このワクワクに挑戦できる恵まれた環境に感謝し、今年もフルスイングで取り組みます。

キーワード:ライブイメージング、ケミカルバイオロジー、種の壁