新薬の創出には膨大なコストと時間がかかり成功確率も極めて低いと指摘されて久しい。一方では、経口C型肝炎治療薬やがんの免疫チェックポイント阻害剤などの画期的新薬の登場により一部の疾患ではこれまでの治療概念が覆されつつあるのがこの数年である。こうした画期的新薬登場の背景にも、病態・病因の分子レベルでの理解と新規標的の発見、そして的確に標的をヒットする化合物や抗体の創出と最適化、これらのいずれのステップにおいても相応の技術と時間を要したことは忘れてはならない。

 殊に近年の進行再発がん治療の進展には目を見張るものがあり、今年も新たな成果が次々と報告されると期待される。ドライバー遺伝子変異を標的とした分子標的治療薬は第二、第三世代へと進化し、特定の患者群では大幅な無増悪生存期間の延長が実現しつつある。加えて免疫チェックポイント阻害剤で実証されつつある長期生存例の出現は、がんに対抗するT細胞免疫がいかに強力であるかを物語っており、新たなチェックポイント阻害剤の開発も期待される。また、二重特異性抗体などを用いた通常のT細胞受容体を介さないT細胞の動員・活性化にも期待がかかっている。

 多種にわたるドライバー遺伝子変異の一括解析、腫瘍の微小環境やがん細胞が持つ免疫原性の総合的分析、それらのいずれの局面においても近い将来、がん組織の網羅的遺伝子(変異)プロファイリングが最適な個別化医療実現のためには必須な解析手法になると予想する。

 翻って創薬技術の視点で考えて見ると、低分子医薬、抗体医薬いずれにおいても大きな進展がみられる。特に抗体では通常のIgGが持つ中和活性や細胞障害活性に加え、抗体薬物複合体や二重特異性抗体などの新規機能を付与する改変技術の応用が進み、抗体医薬品の標的は大幅に拡大された。一方、細胞内の標的には抗体は届かず、細胞内に入って蛋白-蛋白相互作用、蛋白-核酸相互作用、あるいは核酸自身を標的と出来る中程度の分子サイズの薬物という新たな治療薬概念が、今後の新薬創出の一つの鍵となるであろう。