日本人の平均寿命は男女とも80歳台に到達した。その一方で、介護を必要としない健康寿命は男女ともに70歳台前半で、平均寿命との差は男性で約9年、女性で12年である。国民医療費の総額が40兆円台に達し、介護費用の総額はほぼ10兆円であり、双方とも上昇傾向は続くものの、介護費用の伸びは医療費のそれを凌ぐ勢いである。今後もしばらくは高齢者人口が増えることを考えると、平均寿命と健康寿命の差、すなわち支援・介護を必要とする年数を短縮することが強く望まれる。

 支援・介護が必要となった原因を見ると、そのトップは約20%の脳血管疾患(脳卒中)である。加齢による虚弱、関節疾患、転倒・骨折を合わせたおよそ35%がそれに匹敵する原因となる。健康寿命の延伸にはこれら疾病の発症を予防、そして病状の軽減化が必要となる。そして何よりも大事なことは、健康寿命の延伸は基本的には日常生活の中で、運動習慣の励行、健全な食生活の実践により成立するという点である。加齢とともに健康寿命の終点を迎えつつある高齢者に、積極的な運動励行を実施させることは難しい。その時にこそ、食の機能を最大限に活用して健康寿命の延伸を図ることが肝要であると考えている。超高齢社会を迎える日本において、食の機能が運動機能の一部を代替する可能性を求めて、運動機能性を模倣する食品成分を見出し、これを活用する「運動機能性食品」の創製を目指す基礎研究を進めている。

 現在、内閣府SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)次世代農林水産業創造技術の「次世代機能性農林水産物・食品の開発」プロジェクトでは、脳機能、身体ロコモーション機能維持に資する農林水産物・食品の開発、創製を目指し、100人以上の研究者が一堂に会し、研究を進めている。2015年から始まった機能性表示食品制度も、このような研究プロジェクトの一つの推進力となっている。信頼性の高い科学的エビデンスを集積させ、イノベーションへと展開し、食に潜在する機能を活用して脳機能、身体ロコモーション機能を維持し、健康寿命の延伸に寄与することが求められている。

 同時にこれまでの食品企業との共同研究の拡大版として、現在、東京大学大学院農学生命科学研究科に社会連携講座を開設(2016年4月より)する準備を進めている。寄付講座と異なり、社会連携講座ではそこから派生する知見を知財として出資企業と共有する。食べ物と代謝・身体機能の接点について詳細な解析を進め、食の機能の可能性を深く探ることを目指す。基礎研究を充実させ、応用研究へと展開、イノベーション創出へと結びつくことを期待している。

 第2次世界大戦後、日本では平均寿命の延伸とともに、生活習慣病患者数も激増した。この70年間の日本人の食事からの摂取エネルギー量は、実はほぼ横ばいか、やや減少している。生活習慣病増加の原因の一部が食生活にあるとすれば、それは飽食の結果ではなく、食事内容の欧米化に起因すると言える。世界的に見ると健康長寿食ともてはやされる現代日本型食生活も、決して完璧なものではない。食生活の質の向上による健康維持、その結果として健康寿命延伸の達成というコンセプトは、このような戦後70年の食生活変遷に裏打ちされている。

キーワード:健康寿命、運動機能性食品、身体機能維持