<科研費>
 日本学術振興会は、人文学、社会科学から自然科学までのすべての分野の研究者に、科学研究費(科研費)を配分し、研究助成を行う機関です。科研費は、研究者から申請された研究課題を、専門分野が近い複数の研究者が審査・評価します。これはピア・レビューと呼ばれる審査方法で、海外でも標準的に行われています。学術システム研究センターは、審査が公正に行われていることを確認するとともに、科研費が基礎から応用まで多様なサイエンスをもっとサポートできるように、審査基準の見直しや審査方法の改善を行なっています。学術システム研究センターは、100人を超える現役の研究者が、主任研究員あるいは専門研究員として私利私欲から離れ、日本のサイエンスのために汗を流す世界に誇れる組織です。

 最近大学や研究の現場では、産業や経済活性化にすぐに役立つ研究を優先させようとする外圧をひしひしと感じます。しかし、本当に成果を求めるのであれば、2、3年ですぐに結果が出る研究だけでなく、5年後10年後に花開くような科学をサポートする体制を堅持する必要があります。この数年多くのノーベル賞が日本の研究者に授与されているのは、これまで基礎から応用まで幅広い研究を長い目でサポートしてきた、日本の伝統の上に花開いていると思います。

 日本の針路を決める立場におられる方々には、ただ単に優れた技術をもった科学者の養成や近視眼的な科学を推進するのではなく、多様な価値観をもった研究を長い目で推進することをお願いしたい。そのためにも、科研費システムをもっとサポートしていただきたい。それが、優れた技術をもつだけでなく、独自な素晴らしい文化や哲学をもつ日本の存在感を高めることにつながると思います。

<農芸化学>
 日本農芸化学会は、脚気の原因が栄養素の欠乏であることを世界で最初に見出し、その栄養素ビタミンB1を発見した鈴木梅太郎博士が1924年に設立した学会です。また「農芸化学」は、生命現象を化学の言葉で理解し、その知識を社会に役立てることを目的とした学問分野です。微生物、植物から動物、ヒトまでを対象としており、化学、物理化学、生化学、分子生物学など幅広い分野を含んでいます。「農芸化学」は、日本で独自に発達した学問分野で、海外にはこれに相当する分野や学会はほとんど見当たりません。

 「農芸化学」は、社会と密接に関係する食と健康、ものづくり、環境の問題などを研究の対象としており、産業界と連携しながら研究を発展させてきました。大村智博士による抗生物質発見は、まさに「農芸化学」的な研究であると思います。

 日本農芸化学会では、2024年に迎える100周年に向けて、記念事業を今年から開始します。その中で、この日本独自の「農芸化学」をさらに発展させるとともに、日本農芸化学会をもっと社会に役立つ学会にし、日本の科学に貢献したいと思います。

キーワード:日本学術振興会、農芸化学