新春展望、佐藤陽治=国立医薬品食品衛生研究所再生・細胞医療製品部長

もっと再生医療にリスクコミュニケーションを!

(2016.01.01 00:10)

 新年、あけましておめでとうございます。新しい年に大きな期待と希望を抱いている方々がたくさんいらっしゃると思います。ただ、多少なりとも何らかの心配を抱いている方々もいらっしゃるのではないかとも思います。なぜ心配か?それは、新しい年は私たちにとって、まだ経験していないものだからです。

 自分が経験したことのないことに取り組まなければならなくなったときの姿勢には、大きく分けて「前例主義」と「リスクベースアプローチ」の2種類があります。「前例主義」とは、成功した前例に従っていれば絶対に失敗しないという前提に立ったアプローチ方法です。前例に忠実に従うことが必要ですから、定型化された様式、つまり「作法」が発達します。年始の挨拶をする場合も、お作法に従っていれば失敗はしません。一方、「リスクベースアプローチ」は、どんな行為にも「不都合なこと」という意味でのリスクが存在するということを前提とし、その上で個々のリスクの最小化を図り、それでも残るリスクと想定されるベネフィットとのバランス関係の最適解を求める方法です。つまり、万一失敗する場合があってもそれが大失敗に至らないようにするにはどうすればよいかということを思考しながら進む姿勢です。再生医療のような革新的技術を実用化しようとする試みでは、製品が多様である上に先例に乏しいため、常にリスクベースアプローチがプリンシプル(原則)だと言われています。

 安全で有効な再生医療を迅速に患者のもとに届けるために成立した2つの法律、薬機法と再生医療等安全性確保法が施行されてから1年余りが経ちました。薬機法のもとでは、新しい製品カテゴリーである再生医療等製品として、ヒト(同種)骨髄由来間葉系幹細胞とヒト(自己)骨格筋由来細胞シートの2品目が、厚生労働省の製造販売承認を取得しました。我が国独自の制度である条件・期限付き製造販売承認がヒト(自己)骨格筋由来細胞シートに初めて適用されたこともあり、日本の新制度は海外でも注目を浴びています。事は追い風に乗り、順調に進んでいるようにも見えます。ただ、開発側も規制側も経験はまだまだ多くはありません。

 例えば、ヒト細胞を含む製品の非臨床試験をどう実施・解釈すればより合理的になるか、条件・期限付き製造販売承認の後の有効性・安全性の検証をより効果的かつ科学的に進めるにはどうしたらよいか、製品の改善・安全対策のためには患者情報をどう集約すべきか、再生医療等安全性確保法の下に様々な医療機関に設けられた(特定)認定再生医療等委員会の審査の質を担保するには何が必要かといった問題など、有効で安全な再生医療等製品(細胞加工物)の開発と実用化を持続可能なものとするという目的の達成には多くの課題があります。これらの課題について、患者のリスク、公衆衛生上のリスク、ビジネス上のリスクなどを踏まえ、より一層の整理が必要かと思います。

 昨年は、ヒトiPS細胞由来網膜色素上皮細胞の臨床研究において2例目の実施が断念されたことにより、再生医療の安全性の考え方について、まだ十分なコンセンサスが得られていない部分があることも明らかになりました。再生医療等製品をはじめとする革新的医薬品等が、「革新的」であるということは、誰もが未経験ということです。これらをベッドサイドに届けるためには、希望を共有するだけでなく、それに付随するリスクについても社会的コンセンサスが必須です。そういった意味で、産学官だけでなく社会全体が、革新的医薬品等のリスクの科学的な考え方を当事者として十分に議論・理解しあえる場が一層充実されることを、新しい年になった今、私は願っています。

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