先駆け審査指定制度は、審査期間を短縮することにより、患者に世界で最先端の治療薬を最も早く提供することを目指している。従来は米食品医薬品局(FDA)や欧州医薬品庁(EMA)が世界初の新薬審査のリスクをほぼ全て負ってきた中で、我が国もリスクを分担しようという決断は、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)の3極の1つとして極めて重要である。

 ドラッグラグが解消した今、欧米で先行して承認され、安全性が確立した国際的後発新薬を、日本人のデータを追加して審査や安全対策を行うことに慣れた頭を、質的に大胆に切り替えることが求められる。

 開発段階で明らかにすべきことと、市販後段階にゆだねることができることを峻別し、市販後に予想されるリスクに応じて承認条件を付す等により開発や審査の負荷を軽減するとともに、市販後の安全性を確保し、その情報を欧米と共有することこそが、我が国が特徴ある新薬開発の拠点として蘇るためには必須である。

 厚生労働省が内外無差別で先駆け審査指定制度をスタートしたことは高く評価できるが、承認後のリスクマネジメント部分には多くの不安材料が隠されている。RMP(リスク管理計画)導入時にも指摘されたことであるが、制度の呼び名は近代化されても、安全対策(リスクマネジメント)の内容は旧態依然であり、先駆け審査指定制度でスピードアップされた開発から承認・販売までの受け皿が旧態依然では、安心して開発や審査ができないということである。

 我が国は欧米に先駆けて、80年代から再審査制度、再評価制度、市販後調査制度、条件付き承認制度、全例調査制度、市販直後調査制度等、多くの市販後の安全対策に係る制度の強化を図ってきた。さらに、我が国は欧米とは異なり、医療フィールドは狭い日本国内に限られており、医療機関や医師も市販後安全対策に極めて協力的であり、さらには、国民皆保険制度や医薬品副作用被害救済制度もあり、新薬の市販後のリスクマネジメントには最適な国といえる。

 先に述べた通り、我が国は欧米に先駆けて市販後安全対策のためのいろいろな制度を早くから導入してきた。しかしながら、これらの制度は過去に起きた薬害事件等への対応策として導入されたものが多い。副作用の評価方法を始め、グローバルスタンダードともなってきているライフサイクルマネジメントという新しい概念からすると、重複や重要性の低下、制度間の混乱等も起きている。特に欧米との制度間の相違は大きく、欧米との情報交換を困難にしているだけではなく、我が国発の情報が欧米だけではなく発展途上国からも受け入れられにくくなってきている。

 安全対策については、先駆けパッケージ戦略には「体制の強化」という内容で簡単に述べられているが、我が国の安全対策が抱えている問題は、量的なものではなく質的なものである。今まさにスタートした先駆け審査時代の受け皿にはなりえないことを関係者は十分認識し、大きな問題が起こる前に、従来の延長線上の発想ではなく、全く新しい視点で、科学的かつ質的に再構築することを、新年にあたり期待したい。