昨年末、ある学会の講演を聞いて驚いたことがありました。次世代シーケンサー(NGS)によるエクソーム解析などを用いて、疾患の遺伝的な原因を調べている大学教授の講演でした。同教授は、てんかんを来す限局性皮質異形成(FCD)の孤発例について、疾患ゲノム解析を実施。その結果、一部の症例において共通する哺乳類ラパマイシン標的蛋白質(mTOR)の変異が見つかったのですが、その変異は極めて低頻度な体細胞モザイク変異であったというのです。

 体細胞の一部に生じた低頻度のモザイク変異が、重篤な後天性疾患の原因になっていることが明らかになったわけです。そのため診療(研究)現場では、NGSの読み取り深度を深めたり、超高感度の解析が可能なPCRを用いたりと、あの手この手で低頻度のモザイク変異の検出に努めているといいます。加えて同教授は、末梢血から採取した正常組織の遺伝子と、病変のある臓器など局所の遺伝子とを両方とも解析しなければ、疾患の原因を突き止めることは難しいと話していました。

 もっとも、こうした現象はあらゆる疾患で見つかるわけではなく、脳神経系の疾患など一部の臓器や疾患に限られたものではあるのでしょう。それでも低頻度のモザイク変異が、疾患という形で生体の機能に大きな影響を及ぼしているという事実に衝撃を受けました。私たちはこれまで変異を語るとき、生殖細胞系列、体細胞系列といったくくりだけで議論をしてきましたが、遺伝診療の最前線では近い将来、一細胞レベルで遺伝子を調べ、頻度の大小よりも、機能で変異を評価する時代がやってくると考えられます。

 これはほんの一例ですが、様々な新技術の登場により、我々の常識は次々と塗り替えられつつあります。昨年9月、厚生労働省は医薬品産業強化総合戦略を発表し、後発薬80%時代を迎える製薬企業に対して「常識を捨て、競争力を強化せよ」というメッセージを発信しました(関連記事)。総合戦略が奏功したわけでもないでしょうが、ここのところ、事業の再編や新技術への投資など、国内の製薬企業には新たな動きが目立っています。

 サイエンスも、事業環境も、これまでの常識が非常識になる時代です。変化の時に少しでも読者の皆様のお役にたてるような、柔軟な情報が発信できるよう、心がけたいと思います。本年もどうぞよろしくお願いいたします。