新型コロナワクチン開発の最大の特徴は、多様なモダリティが一挙に開発されていることだ
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン開発が急ピッチで進められている。新型コロナワクチンに適したモダリティは何か、開発期間短縮化の影響はあるか、懸念材料だった接種後増悪は今どうなっているか、ワクチンの有効性はどの程度期待できるのか――。開発現場の取材を通じ、見えてきた4つの課題の現状を検証した。

 今回、世界で進んでいるワクチン開発の最大の特徴は、古典的なものから先端的なものまで、多様なモダリティ(治療手段)のワクチンが一挙に開発されていることだろう。公衆衛生上の緊急事態に、製薬企業やベンチャー企業、アカデミアが自ら保有する基盤技術を活用し、続々とワクチン開発に参入している状況だ。主なものだけでも、(1)ウイルスベクターワクチン、(2)mRNAワクチン、(3)DNA(プラスミド)ワクチン、(4)組換え蛋白質ワクチン、(5)組換えウイルス様粒子(VLP)ワクチン、(6)不活化ワクチン――と様々で、モダリティごとに誘導できる免疫応答の種類なども異なる(下欄)。

 モダリティごとに製造供給能も製造工程も異なることから、「世界中のあらゆる製造施設を活用し、少しでも多くのワクチンを供給できるようにするため、多様なモダリティが開発されることは望ましい」(アカデミアの研究者)。ただ、組換えVLPワクチンや不活化ワクチンなど、相当数の投与実績を有するモダリティがある一方で、ウイルスベクターワクチンやmRNAワクチンなど、これまで承認されたワクチンがほとんど無く、投与実績が蓄積されていないモダリティも目立つ。業界関係者は、「実用化されてもモダリティごとに、リスクとベネフィットのバランスが異なることになるだろう」と指摘する。

 もっとも、同じコロナウイルスを原因とする、重症急性呼吸器症候群(SARS)やMERSに対するワクチンは実用化しておらず、COVID-19にどのモダリティが適しているかも分からない中、やってみなければ分からないというのが実態だ。業界関係者からは、「品目数は少ないだろうが、複数のモダリティのワクチンで安全性、有効性が示される可能性はある。流れとしては、日米欧(中国は別)ではまず、ウイルスベクターワクチンやmRNAワクチンが登場し、その後で組換え蛋白質ワクチンや不活化ワクチンが使われることになるのでは」との声や「初めに出てくるウイルスベクターワクチンやmRNAワクチンは、供給量が限られると予想されるので、まずは高齢者や医療・介護従事者を対象に接種されるのではないか」との声が聞かれている。

新型コロナワクチンの主なモダリティの特徴
組換えウイルスベクターワクチン

 ヒトに対して病原性の無い、または弱毒性のウイルスベクターに抗原蛋白質の遺伝子を組み込んだ組換えウイルスを投与するワクチン。ウイルス自体が細胞に侵入し、細胞質で抗原蛋白質を高発現することで、液性免疫、細胞性免疫を引き起こすと考えられている。ベクターには、アデノウイルスやレトロウイルスなどが用いられる。ただしこれまで世界で承認されたウイルスベクターワクチンは、欧州で承認された米Johnson & Johnson社のエボラウイルスワクチンと、中国で承認された中国CanSino Biological社のエボラウイルスワクチンのみにとどまっている。

 COVID-19には、主にスパイク蛋白質の遺伝子を組み込んだウイルスベクターワクチンが開発されており、英Oxford大学と英AstraZeneca(AZ)社はチンパンジーアデノウイルスを、中国CanSino Biological社はアデノウイルス(5型)を、Johnson & Johnson社はアデノウイルス(26型)を、IDファーマはセンダイウイルスを用いたワクチンを開発中。一般に、1回の接種でウイルスベクターに対する抗体ができるため、2回目の接種は難しいと考えられているが、Oxford大とAZ社は南アフリカで実施中の第1/2相で同じベクターでの2回投与を評価している。

mRNAワクチン

 抗原蛋白質の塩基配列をコードしたmRNAのワクチン。生体内で分解されないようにするため、また、自然免疫が過剰に誘導されるのを抑えるため、脂質ナノ粒子(LNP)などに封入して投与する。投与後は、細胞質内でmRNAが抗原蛋白質に翻訳されて免疫が誘導されるため、液性免疫だけでなく、細胞性免疫も引き起こすと考えられている。これまで世界で承認されたmRNAワクチンはないが、核酸修飾技術やLNPなど薬物送達システム(DDS)が開発されたことで、ここ数年で研究開発が活発化している。

 COVID-19に対しては、スパイク蛋白質の全長あるいは一部の塩基配列をコードしたmRNAをナノ粒子に封入したワクチンを、米Moderna社などが開発中。抗原などは非開示だが、第一三共もmRNAワクチンを開発している。また米BioNTech社や英Imperial College Londonは、投与したmRNAの塩基配列からmRNAを増幅し、発現量が高く、発現期間が長く、自然免疫が賦活化される自己増殖性mRNAを用いたワクチンを開発している。

DNAプラスミドワクチン

 抗原蛋白質の塩基配列をコードしたプラスミドDNAのワクチン。基本的にはそのまま(裸で)投与するため、投与後はそれ自体がアジュバントとして自然免疫を誘導するとともに、核内でmRNAに転写され、細胞質内で抗原蛋白質に翻訳されることで、液性免疫だけでなく、細胞性免疫も引き起こすと考えられている。mRNAワクチンに比べ、抗原蛋白質の発現には、転写と翻訳の2段階が必要となる。これまで世界では数多くのDNAプラスミドワクチンの臨床試験が行われたが、承認されたものは無く、その背景に免疫原性の低さを指摘する声もある。

 COVID-19に対しては、スパイク蛋白質の塩基配列をコードしたDNAプラスミドワクチンを、米Inovio Pharmaceuticals社やアンジェスなどが開発中。Inovio社は、強い細胞性免疫を誘導するためとして、エレクトロポレーション(電気穿孔法)後に皮内注射するワクチンを、アンジェスは免疫原性を上げるため、非開示のアジュバントを添加したワクチンを開発している。

組換え蛋白質ワクチン

 ウイルスの構成成分である抗原蛋白質を昆虫細胞や植物、哺乳動物細胞などで産生、単離、精製したワクチン。投与後は抗原蛋白質が細胞外から取り込まれ、ペプチドに分解されて、主に液性免疫を誘導すると考えられている。米国では2013年、昆虫細胞を使った蛋白質発現システムを用いたフランスSanofi社(旧米Protein Sciences社)の季節性インフルエンザワクチン「Flublock」(組換えインフルエンザHAワクチン)が承認、販売されており、相当数の投与実績がある。

 COVID-19に対しては、主にスパイク蛋白質を抗原とする組換え蛋白質ワクチンを、米Novavax社、中国Clover Biopharmaceuticals社、Sanofi社、塩野義製薬(UMNファーマ)などが開発中。免疫原性を高め、抗原量を減らして供給量を増やすためとみられるが、いずれも何らかのアジュバントを添加して開発を進めている。

組換えウイルス様粒子(VLP)ワクチン

 ウイルスのゲノムを含まない外殻蛋白質のみを、微生物や昆虫細胞、植物で産生、単離、精製したワクチン。投与後は抗原蛋白質が細胞外から取り込まれ、ペプチドに分解されて、主に液性免疫を誘導すると考えられている。これまで世界では、B型肝炎ワクチンやヒトパピローマウイルスワクチン(子宮頸がんワクチン)など、複数のウイルス様粒子(VLP)ワクチンが承認されており、日本を含めて相当数の投与実績がある。
 COVID-19に対しては、田辺三菱製薬の子会社であるカナダMedicago社がVLPワクチンを開発中。また、阪大微生物病研究会も複数のモダリティの1つとして、VLPワクチンの研究開発を進めている。

不活化ワクチン

 ウイルス自体を培養し、ホルマリンや加熱処理、紫外線照射などを用いてウイルスの感染性や病原性を消失させたワクチン。投与後は、ウイルスの成分が自然免疫を誘導するとともに、抗原蛋白質が細胞外から取り込まれ、ペプチドに分解されて、主に液性免疫を誘導すると考えられている。ただし、ウイルスを培養する必要があるため、ウイルスの病原性に応じ、バイオセーフティレベルを満たした製造施設が必要となる。これまで世界では、日本脳炎ワクチン、ポリオワクチン、Hib(インフルエンザ菌b型)ワクチンなど、数々の不活化ワクチンが承認されており、日本を含めて相当数の投与実績がある。

 COVID-19に対しては、中国やインドの企業を中心に複数の企業が不活化ワクチンを開発中。また、KMバイオロジクスも不活化ワクチンの開発を進めている。