欧州では最近、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策としてのロックダウンを順次、緩和し始めている。それと並行して、第2波への備えや終息への切り札としてワクチンの開発が進められているが、米国のワクチン囲い込みに対して欧州が反発するといった対立の構図が、ここへ来て浮かび上がってきた。

 欧州はワクチン開発に多額の資金を投入している。欧州委員会は4月上旬、「ERA vs CORONA アクションプラン」を発表し、研究開発向けの投資を各国が協調して進めること、研究データを共有するプラットフォームを整備することなどを表明した。5月上旬には、「コロナウイルス・グローバル・レスポンス」を主催し、ワクチンや治療法の開発促進のため、40カ国の政府などから合計80億ドルを確保した。これには欧州諸国の他に日本などが参加した一方、米国は参加しなかった。5月中旬には欧州諸国全体の研究開発支援の枠組みである「Horizon 2020」の予算から、1億2000万ユーロをコロナウイルスの研究に拠出することを発表した。

 また英国は、独自にワクチン開発への投資を進めている。大量製造に対応できるよう、製造施設の建設に1億3000万ポンドを拠出することを5月中旬に発表した。もともと設立が予定されていた製造設備の完成を前倒しするために9300万ポンドを拠出し、2021年の夏の開設を目指す。さらに、この設備が開設する前にワクチンの有用性が確認された場合に備え、英国内の需要をカバーできる生産能力を持つ製造施設を6カ月以内に設立すべく、3800万ポンドを拠出した。また同じく5月中旬、Oxford大学とImperial College Londonのワクチン開発プロジェクトに8400万ポンドを拠出すると発表した。

資金供与の見返りに優先的な供給求める米国

 このように欧州各国がワクチン開発への投資を急ぐ背景には、米国との攻防に端を発する焦燥感がありそうだ。米国は欧州の有望なワクチン開発プロジェクトに対し多額の投資をすることで、米国民にいち早くワクチンを供給できる体制を整えつつある。その動きに欧州各国が抵抗を見せているわけだ。

 3月、米国政府がワクチン開発企業のドイツCureVac社に対して多額の投資と引き換えに米国への誘致を試み、ドイツ政府が阻止すべく対策を講じたとされている。

 5月中旬には、米生物医学先端研究開発局(BARDA)より3000万ドルの投資を受けたフランスSanofi社が、米国に優先的にワクチンを供給する方針を発表してフランス国内で批判が広がった。フランス首相はSanofi社に対し、ワクチンは世界の公衆衛生のために使われるべきであり市場原理によって特定の国が優先されるべきではない、と警告した。これを受けてSanofi社は前言を撤回し、全世界に公平に供給する方針を発表した。

 さらに5月下旬には、英AstraZeneca社とOxford大学の開発プロジェクトに対して米国側が、米国内での第3相臨床試験の実施費用として最大12億ドルを投資する代わりに、初回生産分から少なくとも3億回分のワクチンを米国に供給することを確約させた。ワクチンの確保をめぐる米国と欧州の攻防は続いている。

 欧州での主要なワクチン開発パイプラインは以下の通りだ。Oxford大学がAstraZeneca社に導出し開発を進めているAZD1222は、アデノウイルスベクターでウイルス表面のスパイク蛋白質を体内で発現するようにしたものだ。第1相臨床試験を4月末に開始し、5月末には第2/3相臨床試験の開始を発表した。今年9月の承認を目指して急ピッチで開発を進めている。

 Sanofi社と英GlaxoSmithKline社は4月に共同開発を行うことを発表し、蛋白質抗原とアジュバントを組み合わせたワクチンの臨床試験の準備を進めている。Imperial College London、ドイツBioNTech社、CureVac社は、それぞれmRNAワクチンの開発を進めている。Imperial College Londonは英国政府から2250万ポンドの投資を受けて臨床試験の準備を進めている。BioNTech社は米Pfizer社と共同でBNT162の臨床試験を4月にドイツで開始した。CureVac社はBill & Melinda Gates財団と米国防総省より投資を得ており、6月に臨床試験を開始する予定だ。ワクチン確保に向けた各国の攻防が例を見ないスピードで進んでおり、開発状況を含めて今後も目が離せない。