新型コロナウイルスに感染したTrump大統領の症状に世界の注目が集まっている(画像:123RF)

 米White Houseは2020年10月3日(土曜日)、大統領の主治医を務めるSean P. Conley(ショーン・コンリー)氏がKayleigh McEnany(ケイニー・マクナニー)大統領報道官宛てに送った書簡(Memorandum)の内容を公表した。その中でConley氏は「大統領は10月1日木曜日の夜に初めてCOVID-19と診断され、10月2日金曜日に抗体カクテルを投与された」ことを明らかにしている。2日からワシントン郊外の軍の医療施設に入院しているTrump大統領は、一時予断を許さない状況にあったようだ。

 Conley氏は米海軍司令官(Commander US NAVY)の肩書を持ち、2018年からTrump大統領の主治医を務めている。1946年生まれのTrump氏は現在74歳で、次期大統領選に向けて高齢であることが懸念されていた(民主党のBiden氏は77歳)。主治医であるConley氏は2019年、「Trump大統領は全体的に非常に健康である」と宣言して、健康問題を払拭しようとしていた。ただ、Trump大統領は体重が100kgを超えているため、肥満が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクを高めるとも指摘されている。こうした経緯を踏まえると、Conley氏の書簡には2つの注目ポイントがある。

「陽性と判明したのは10月1日木曜日の夜」

感染を自ら明らかにしたTrump大統領のツイート

 1つ目の注目点は、Trump大統領が陽性と疑われたのがいつだったのかということ。大統領がツイッターで新型コロナウイルスに陽性であったことを自ら公表したのは米国東部時間の10月1日(木)の23時54分だ(日本時間の2日午後1時54分)。その約2時間前には、大統領顧問のHope Hicks氏が陽性であったことを大統領がツイートしている。

Conley主治医が大統領報道官に3日付で送った書簡
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This morning while summarizing the President's health, I incorrectly used the term "seventy two hours" instead of "day three" and "forty eight hours" instead of "day two" with regards to his diagnosis and the administration of the polyclonal antibody therapy.(今朝、大統領の健康状態をまとめながら、彼の診断とポリクローナル抗体療法の実施に関して、私は「3日目」の代わりに「72時間」、「2日目」の代わりに「48時間」という用語を誤って使用しました)
The President was first diagnosed with COVID-19 on the evening of Thursday, October 1st and had received Regeron's antibody cocktail on Friday, October 2nd. (大統領は10月1日木曜日の夕方に初めてCOVID-19と診断され、10月2日金曜日にRegeron(Regeneronの誤記か)の抗体カクテルを投与されました)

 ただ、Conley氏をはじめとする医師団は会見の中で、9月30日(水)には大統領が陽性と診断されていたという趣旨の発言をしている。これが事実だとすると、Trump陣営には大きな痛手となる。Trump大統領は1日に東部ニュージャージー州で選挙イベントに出席していた。前日の30日時点で陽性(もしくは陽性の可能性が高い)と分かっていながら、不特定多数の人に会うイベントに出席していたとなれば、「感染予防よりも選挙活動を優先した」という批判は免れないからだ。米メディアから疑惑が持ち上がったことを受け、時系列を明確にするために出されたのが、大統領報道官宛てのConley氏の書簡だった。

 1日の選挙イベントでは「大統領の声がいつもよりかすれていた」との指摘も出ているが、真相は分からない。ただ、White Houseの公式発表として、Trump大統領が陽性であると初めて断定されたのが10月2日の夜であることが明示された。これがTrump政権の正式な発表であり、今後これが覆ることは考えにくい。

正式認可前の抗体医薬を大統領に投与

 Conley氏の書簡でもう1つのポイントは、10月2日金曜日の段階で、ウイルスの増殖を抑えるための抗体医薬がTrump大統領に投与されたと主治医が明言していることだ。ちなみに書簡の中でConley氏は「Regeron's antibody cocktail」と書いているが、ほぼ間違いなくRegeneron (Pharmaceuticals)社のタイプミスだろう。別の書簡でConley氏は「he received a single 8 gram dose of Regeneron's polyclonal antibody cocktail(彼はRegeneron社のポリクローナル抗体カクテルを8g単回投与された)」と書いている。

 ちなみにRegeronは2000年に設立された韓国の化粧品ブランドで、これまで抗体医薬を開発した実績は無い。今、世界で最も注目を集めているTrump大統領の病状について、本来であれば主治医の書簡の内容は何重にもチェックを受けた上で公表されるはずだ。にもかかわらず、こんな初歩的なタイプミスが見逃されている。それだけWhite Houseは混乱しているとも読み取れる。

 もう1つの読み筋としては、Trump大統領の症状が一時的にしろ、相当悪化していたことを示すものだ。Conley氏は「予防的な措置」としてRegeneron社の抗体カクテルを投与したと説明しているが、同社の中和抗体(開発番号:REGN-CoV2)は現在第3相臨床試験の段階だ。現職の米国大統領に開発途中の新薬を投与するという決断は簡単にはできないはずだ。しかも次期大統領選が1カ月後に控えており、副作用などで意識不明となれば(健康問題を指摘されていた高齢の)Trump氏にとって致命傷となる。こうしたリスクを冒してでも、ウイルスの増殖を抑制する中和抗体を投与する決断を下したのは誰か。私は、一刻でも早く選挙活動に復帰したいTrump氏本人ではないかと推測している。

 ただ、Regeneron社の中和抗体は、現在世界で最も効果が高いと期待できるものだ。Regeneron社は米国立衛生研究所(NIH)傘下の米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)ワクチン研究センターの支援を受けながら、抗体医薬の開発で実績のあるスイスRoche社と共同でREGN-CoV2を開発している。以下の関連記事に詳しく解説があるが、200種類の候補から中和活性が高い2つの抗体(REGN10933とREGN10987)を組み合わせて(カクテルして)いる。東京理科大学名誉教授の千葉丈氏(国立感染症研究所客員研究員)は「REGN-CoV2は現時点で最も有望な中和抗体の1つと評価できる」と指摘している。

2日からレムデシビルの投与も開始

 Trump大統領が新型コロナに感染した経緯を時系列にまとめると以下のようになる。時間は全て米国東部時間(日本との時差はマイナス14時間)。

10月1日(木)
・東部ニュージャージー州で選挙イベントに出席
・21:44、Trump大統領がツイッターで、大統領顧問のHope Hicks氏が陽性であったと発言。自分とMelania夫人が検査結果を待っていることを明かす
・23:54、Trump大統領がツイッターで自分と夫人が検査で陽性であったとツイート
・(夜には検査で陽性だったとConley主治医が明らかにしている)

10月2日(金)
・(Conley主治医の2日付の書簡1)大統領はPCRで陽性と確認された後、予防的措置として、Regeneron社のポリクローナル抗体カクテルを8g単回投与されました。彼は何事もなく注入を完了した。ポリクローナル抗体に加えて、大統領は亜鉛、ビタミンD、ファモチジン(胃酸分泌を抑えるヒスタミンH2受容体拮抗薬)、メラトニン(睡眠導入を目的としたサプリメント)、および毎日のアスピリンを服用しています
・(White House内で一時、酸素吸入治療を受けていたと米メディアは報道)
・(午後)大統領専用ヘリコプターでWalter Reed軍医療センターに移動。自ら歩き、報道陣には手を振る余裕があった
・17:31、Trump大統領がワシントン郊外のWalter Reed軍医療センターに入院するとツイッターの動画(18秒)で報告(ネクタイを締めて、立って発言している)
・23:31、Trump大統領が「良くなっている」とツイート
・(Conley主治医の2日付の書簡2)今日の午後、Walter Reed医療センターやJohns Hopkins大学の専門家と協議して、さらなるモニタリングのため大統領に入院することを勧告した。夕方になって大統領はかなり回復したことをリポートできるのは喜ばしい。既に酸素吸入治療は必要ない。ただ、専門家からの助言により(抗ウイルス薬である)レムデシビルの投与を開始した

10月3日(土)
・Conley主治医らが会見、大統領は「とても元気」との見方を示す
・12:19、Trump大統領がWalter Reed医療センターの医療従事者に感謝の意をツイート
・17:51、Trump大統領が4分2秒の動画メッセージをツイッターで公開。体調は回復傾向にあるが「今後数日が正念場」と発言している(終始着席。ジャケットは着ているがネクタイはしていない)
・White HouseがWalter Reed医療センター内で大統領が執務を行っている画像を公開
・(Conley主治医の3日付の書簡3)上記を参照

10月4日(日)
・16:16、Trump大統領がツイッターで1分13秒の動画メッセージを公開。改めて医療従事者や支持者に対して感謝の意を表明(ネクタイはしていないがジャケットを着用して立ったまま発言)
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