ゼロリスク症候群の日本では、ワクチンの価値が正当に評価されていない(画像:123RF)

 日本感染症学会が2020年8月3日に発表した提言「今冬のインフルエンザとCOVID-19に備えて」をお読みになった方も多いと思います。新型コロナウイルスの感染は、足元で第2波が収まりつつあるとも報道されていますが、今冬には医療現場がかつてないほどの混乱に陥るのではないかと懸念されています。

 第1の要因は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の初期症状とよく似た季節性インフルエンザの流行期と重なること。ただでさえ風邪がはやりやすい季節に、インフルと新型コロナが追い打ちをかけるのです。高齢者を中心に今年は外出を控えている人が多いので、風邪も含めて感染症の流行は限定的になるのではないかという楽観論も散見されます。ただ、COVID-19が疑われる患者には特別な対応をしなければならず、街中の診療所やクリニックでは人繰りも含めて頭を悩ませているでしょう。

 第2の要因は、国内でも新型コロナのワクチン接種が年末ごろから始まる見込みであること。現時点では、日本にどの程度の量のワクチンが割り当てられるか全く分かりません。ただ、つい最近までマスクを買うために長い行列ができていました。政府は高齢者や持病がある人に優先的に接種させる方針のようですが、そのカテゴリーに属する人の中でワクチンの争奪戦が起きるのではないかと懸念しています。

 こうした状況を考えると、今冬から医療機関は相当な混雑が予想されます。ちなみに日本感染症学会はCOVID-19とインフルエンザの同時流行を最大限に警戒するため、全国民に対してインフルエンザワクチンの接種を強く推奨しています。もしかしたら11月ごろから混乱が始まるかもしれないのです。

 そこまで考えたとき、嫌な予感がしました。私には高校1年と大学1年の娘がいますが、2人とも子宮頸がんの予防ワクチンをまだ受けていなかったのです。いつかは接種させようと考えていたのに二の足を踏んでいました。子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)に持続的に感染することで発症します。ただ、性交渉が無ければ感染しないため、お年ごろの娘にその辺の事情を説明するのは父親としてためらいがありました。ただ、今冬には医療機関が大混雑することを考えると悠長なことも言っていられません。意を決して家族会議を開き、夏休みにワクチンを接種させることを決めました。

うまい焼き肉が食べれたはずなのに……

 実際に動き出してみると嫌な予感は的中しました。子宮頸がんワクチンは定期接種の対象が小学6年から高校1年に相当する年齢と定められています。高1の次女はぎりぎり間に合いましたが、長女は対象から外れていたので自費となりました。しかもワクチンは3回接種が推奨されており、3回分で4万5000円もかかることが分かったのです。もちろん娘の命に関わることなので「高いからやめる」わけにはいきません。ただ、定期接種の期間に受けていれば公費で受けられたのですから、激しく後悔しました。

 私は子宮頸がんワクチンをめぐる問題について、これまで何度も記事を書いてきました。一般の人よりかなり詳しいと自負していたのに、自分のこととして捉えられていなかったのです。4万5000円あればうまい焼き肉が食べられたのに。ゴルフのドライバーも新調したかったのに……。品が無いことは自覚していますが、思いっきり舌打ちしました。「バカバカ、俺のバカ」と。

 子宮頸がんワクチンをめぐっては、これまでネガティブな情報ばかり報道されてきました。多くの人は何となく怖いというイメージを持っており、5万円近くもかかるならやめておこうと考える家庭も多いのではないでしょうか。ちなみに次女がクラスの友人に聞いたところ、ほぼ全員が子宮頸がんのワクチンを接種していませんでした。このままでは、先進国では日本だけ子宮頸がんで亡くなる人が増えていくでしょう。

 厚生労働省が「積極的な接種勧奨」を差し控えることによって、自治体は対象者やその保護者に定期接種のお知らせを送らなくなりました。5年後、10年後、彼女たちが恋をして母親になったときに「悲劇」に巻き込まれていないことを祈るばかりです。そのときは、舌打ちなんかでは済みませんから。