ブラジルのBolsonaro大統領は「新型コロナはちょっとした風邪にすぎない」と発言して物議を醸した(画像:123RF)
画像のクリックで拡大表示

 この原稿を書いている6月9日、新型コロナウイルスの感染者数は全世界で700万人を突破しました(世界保健機関=WHO調べ)。死亡者数は40万人を上回っています。もはや大台を超えても、ベタ記事程度の扱いにしかならないことに異様な不気味さを感じます。日本のニュース番組では東京都内の感染動向ばかり(それも夜の繁華街)が報じられていますが、世界規模で見れば感染拡大はむしろ速度を増しているのです。

 念のために記しておくと、全世界の感染者の総数が100万人を超えたのは4月4日のことでした。その後100万人増えるのに要した日数は、13日(200万人)、12日(300万人)、12日(400万人)、11日(500万人)、10日(600万人)と徐々に短くなり、700万人を超えるのには8日間しかかかりませんでした。このペースで増え続けると、1週間に100万人以上のペースで感染が拡大するのが「日常」となってしまいそうです。

 さらに深刻なのはデータの信頼性も揺らいでいることです。例えば米国に次ぐ感染国となったブラジルは、6月6日から累計の感染者数と死亡者数の公表を取りやめる方針のようです。Bolsonaro大統領は「新型コロナはちょっとした風邪にすぎない」と公言し、国民に対して外出さえ呼び掛けてきました。ところが感染者と死亡者の急激な増加に国内外から批判が高まっているせいなのか、情報の隠蔽に走っているように見えます。

 Bolsonaro大統領の蛮勇ぶりは目を覆うばかりですが、本質的な問題は同国の貧困問題にあります。たたでさえ乏しい医療体制を考えれば、国民に自粛を求めたところで医療崩壊は免れない。ならばいっそ外出規制はかけずに経済優先で乗り切ろうと考えたのではないでしょうか。若年層の割合がまだまだ大きいブラジルならではの、究極の現実主義なのかもしれません。

いつか、誰かが、解決してくれることは無い

 他にも新型コロナウイルスによって様々な問題が起きていますが、その多くは内在していた課題が一気に噴き出した結果だと私は考えています。

 米国で致死率が高いのは、貧困層に対する脆弱な医療提供体制が解決していなかったからです。世界中でマスクが不足していたのも、人件費の安さに目を奪われて生産拠点が中国に集中していたからに他なりません。日本では医療従事者の過剰労働問題が、コロナ禍で改めてクローズアップされています。これらの課題はいずれも以前から認識されていたことばかりであり、いつか、誰かが、解決してくれるのではないか……と棚ざらしにされてきました。それが未曽有の危機に直面し、構造的な問題が露呈したのです。

 バイオ業界でも課題が噴出しています。その1つがバイオベンチャーの新規上場が2020年に入ってから次々と延期に追い込まれていること。その構造的な要因を、本号の特集(4ページ)で詳述しました。ご存じの通り、今年3月にはペルセウスプロテオミクスとステムセル研究所の上場が相次いで延期されました。これ以外にもIPOを予定していたスタートアップがあったことが、本誌の取材で明らかになっています。コロナ禍でもIPOが途絶えない米国の株式市場の力強さと比べながら、業界関係者に取材を重ねました。

 今号のリポートでは、新型コロナウイルスの治療薬の早期承認問題について取り上げました(40ページ)。未曽有の危機であるため「特例承認」のような制度が必要であるという声が上がる一方、簡易な政令改正によって従来の枠組みが変わってしまうことを懸念する意見もあります。読者の皆さまにもご協力いただいて、希少疾患などの規制についても議論を広げました。

 日本人は喉元過ぎると忘れやすい国民性ですが、人命に関わる問題だけに看過はできません。新型コロナの第1波は収束できたとしても、業界の構造問題は今後も継続して追い掛けていきます。