中国Sinopharm社が開発・製造したワクチンが、南米や東南アジアに普及し始めている(画像:123RF)
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 先日、南米ペルーから一時帰国した友人に驚く話を聞きました。同国の多くの政治家が、承認前の新型コロナウイルスのワクチンを内密に接種していたことが発覚し、現職の閣僚が次々と辞任に追い込まれているというのです。国民を守るべき政治家が、自分や家族の接種を急ぐ姿は「みっともない」の一言に尽きます。私がびっくりしたのは、使われたのが中国Sinopharm社のワクチンだったということ。中国製のワクチンを打ちたい人がどれほどいるのか……というのが多くの日本人の偽らざる本音ではないでしょうか。

 「ワクチン外交」──という言葉を、最近よく耳にします。中国やロシアが自国で開発・製造したワクチンを途上国などに提供して、外交上の“武器”にしているという意味で使われています。実際、ペルーでは中国大使館を通じて同国の政治家などに“儀礼的に”提供されていたというのですから、その裏にどのような思惑があるのかと疑ってしまいます。

 ただ、我々日本人が直視しなければならない現実があります。日本では、塩野義製薬やアンジェスなどがワクチン開発を急いではいますが、実現は早くても2022年以降と見込まれています。日本は世界有数の経済大国であり、近年は毎年のようにノーベル賞受賞者が日本人から選ばれています。日本発の画期的な新薬だって少なからずあるのに、新型コロナに関しては海外からの輸入ワクチンに頼らざるを得ない。こうした状況が、残念ながら当面は続いていくのです。国産ワクチンの実現が危ぶまれている状況を、「ワクチン敗戦」と称する口さがない人も少なくありません。

 臨床試験のデータが十分に開示されていないため「中ロのワクチンは信用できない」と日本人が考えるのは勝手です。ただ、両国のワクチンは世界保健機関(WHO)が設定した基準をクリアしており、既に数百万人が接種しています。南米や東南アジアを中心に導入する国も広がっており、国際オリンピック委員会(IOC)のBach会長が東京オリンピックとパラリンピックの参加者に中国製ワクチンを提供する考えを表明し、日本の関係者を慌てさせました。日本人がイメージしているほど、中ロのワクチンは評判が悪いわけではないのかもしれません。

 中ロのワクチン外交を苦々しく思っていたとしても、ワクチン開発では日本が後じんを拝したことを素直に認めなければならないでしょう。その上で、今後も避けられないパンデミック(世界的な大流行)への対応を、抜本的に見直さなければならないと私は考えています。

日本とASEANがワクチン開発で協力を

 高病原性インフルエンザ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、そして今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)など、近年は新興感染症が数年に1度のペースで発生しています。こうした現実を直視すれば、今後も必ず出現する新型ウイルスに対応するため、日本は東南アジア諸国連合(ASEAN)と連携すべきという鈴木康裕氏(国際医療福祉大学副学長、2020年8月まで厚生労働省の医務技監)の意見は、傾聴に値します(3月23日付の日本経済新聞朝刊)。

 東南アジアは中国の影響力が強くなってきていますが、歴史的に日本と良好な関係を築いてきました。ウイルスは発生国の同意がないと国外に持ち出せませんが、日本とASEANの間で包括的な研究開発体制を構築し、有事に備えることができれば双方にメリットがあります。東南アジアには7億人近い人が住んでおり、大きな市場が見込めれば企業の開発意欲も湧いてくるはずです。もっともウイルスからすれば国境は関係ないので、日本は中国や韓国とも協力してアジアの感染症対策を考えるのが王道ではありますが……。