deleteCが2月1日に都内で開催した支援先発表会に集まった賛同企業のメンバー。左端が代表理事の中島ナオさん、右端が小国士朗さん
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 「病気で苦しんでいる人を救いたい」――製薬・バイオ企業の研究者や病院で日々患者と接している医療従事者に共通する思いでしょう。「アンメット・メディカル・ニーズを満たす」などと言い始めると途端に商売臭くなるのですが、困っている人を助けたいという人としての道義の発露が、読者である皆さまの「働く動機」になっていると私は信じています。

 では患者は、ただただ「弱き人」なのでしょうか。そうした認識はそろそろ改めた方が良さそうです。米国などでは患者団体が力を持ち始めています。例えば自ら寄付金を募り、自分たちが苦しんでいる病気を治すための研究費を拠出し始めています。時には政治家まで動かす行動力を目の当たりにすると、とても「弱き人」には見えません。自分や自分の家族が死ぬかもしれないという焦燥感が人を強くしているのかもしれません。

 日本でも患者発の新しい動きが起きています。2019年9月に設立された「deleteC」は、「がんを治せる病気にしたい」という目標を掲げています。発起人の1人であり、代表理事を務める中島ナオさんもがん患者です。31歳の時に乳がんと診断され、34歳でステージ4まで進行しました。

 ただ、中島さんには悲愴(ひそう)感がみじんも漂っていません。実際に彼女と話をすると、この人がステージ4の患者さんなのかと自分の中の「がん患者観」が見事に裏切られます。もちろん副作用を伴う抗がん剤治療を続けながらの活動なので、治療に専念せざるを得ない期間もあります。それでも中島さんはへこたれません。自らデザインした「髪があってもなくても楽しむことができるN HEAD WEAR」をかぶり、さっそうと、どこにでも出掛けていくのです。

 そんな中島さんの周囲には賛同者が増えていきます。deleteCを共に立ち上げた小国士朗さん(NHKの元ディレクター)もその1人。医者でも、製薬企業の研究者でもない自分たちに何ができるのか。自問自答を繰り返す中で出てきたアイデアが「C=がん」を消すというプロジェクトです。参加する企業などが自身のブランドロゴや商品名から「C」の文字を消したり、deleteCのロゴやコンセプトカラー(ピンク)を使ったりした製品やサービスを販売します。分かりやすい例がサントリー食品インターナショナルの「C.C.レモン」でしょう。「C」部分をピンクの線で消した商品ラベルをデザインして発売したところ、瞬く間に売り切れたそうです。売り上げの一部はdeleteCの活動のために寄付されます。

 注目すべきは、誰もが無理なく、自然とdeleteCの活動に参加できる仕組みが内包されている点です。店頭やネットには商品がたくさん並んでいますが、プロジェクトに賛同している製品やサービスを購入するだけで、deleteCの活動を支援することになります。1回の寄付額はわずかでも、我々1人ひとりの毎日の消費活動が積み重なれば大きな力になります。実際、プロジェクト開始からわずか半年で寄付額は500万円を超えました。企業としても社会貢献していることをアピールできます。

 deleteCは集まったお金をがんの研究やがんの専門医の育成に振り向けます。2月1日に開催された発表会では、埼玉医科大学国際医療センターの藪野彰氏(婦人科腫瘍科助教)や名古屋大学医学部附属病院の奥野友介氏(先端医療臨床研究支援センター特任講師)らの研究が支援先に決まりました。

 こうした活動の延長線上に、研究者や医師と患者の新しい関係が構築されると私は期待しています。つまり患者は「助ける人」にとどまらず、研究費を集めるハブになり得ること。そして患者が主体的に研究に関わることで、特に希少疾患などでは研究をドライブする役割さえ担うと思うのです。中島さんは屈託の無い笑顔でこう話します。「私たちが先生を応援しますから、先生たちは自由に研究してください」。そう言われて奮い立たない人がいるでしょうか。