人類はわずか1年でCOVID-19ワクチンを開発したが、公平な分配という課題に直面している(画像:123RF)

 「先進国がワクチンを公平に分配するのではなく、最初の20億回分のワクチンを購入した場合、COVID-19(新型コロナウイルス感染症)で死亡する人の数はほぼ2倍になる」──米Bill & Melinda Gates Foundationは年次報告書の中で、こう警鐘を鳴らしました。注目は、この報告書が発表されたのが2020年の9月14日だったということです。世界でワクチンの普及が始まる数カ月前から、Gates財団はワクチンが抱える本質的な課題を示していたのです。

 足元の状況はGates財団が懸念していた通りに推移しています。ワクチンの契約ベースで見ると、欧州が15.8億回分を確保して、米国は12.1億回分を押さえました。カナダのように国民1人当たり5回分ものワクチンを契約している国もあります(数値は1月末時点)。金にものをいわせているのでしょうか、ワクチン争奪戦は先進国が圧倒的にリードしています。日本も先進国の端くれとして、3.1億回分のワクチンを(何とか)確保している状況です。ワクチンの開発や普及を長年支援してきたGates財団には、最初から今の「顛末」(てんまつ)が見えていたのかもしれません。

COVAXで公平な分配は可能か

 ワクチンナショナリズムを批判する声は、もちろん上がっています。世界保健機関(WHO)のTedros事務局長は、これまでもワクチンの公平な分配を呼び掛けてきました。1月29日の記者会見では、「村全体が火事に見舞われているのに、一部の家が消火器を買いだめしても意味がない。皆が一斉に使えば、早く火が消せる」と訴えました。分かりやすい例え話ですが、消火器が全く足りていない状況では説得力に欠けます。誰だって、自分と自分の家族を守りたい。これは人間の本能です。道徳心が勝る人が、昨今の状況でどれだけいるでしょうか。

 ワクチンを公平に分配しようとする動きも具体化しています。WHOなどが主導して2020年に立ち上げたCOVAX(COVID-19 Vaccine Global Access Facility)という枠組みです。日本を含む190の国と地域が参加して、2021年末までに20億回分のワクチンを共同購入する計画です。高・中所得国が拠出金をCOVAXに支払い、ワクチンの開発や製造設備の整備に使われます。貧しい国でもワクチンの供給を受けられる仕組みとして期待されていますが、課題は「公平な分配」をいかに実現するかでしょう。

 Tedros事務局長は先進国に対して、自国の医療従事者と高齢者に接種を済ませたら、残りのワクチンは途上国に回すように呼び掛けています。感染や重症化のリスクが高い人にワクチンを優先させるのは理にかなっていますから、ここまでは何とか各国が協力できるかもしれません(私の本音は、これすら実現は難しいと感じています)。その後はどのような基準で分配するのか。拠出金の多寡で決めたらCOVAXの精神に反します。感染状況に応じて分配を決めるとなれば、感染者の割合が相対的に低い日本は後回しにされるかもしれません。そのとき、日本の世論は理性を保てるのでしょうか。

 同じ不満は、ワクチンを国内で配分する際にも生じかねません。供給量が限られている初期は、最も感染者が多い東京都を優先することになるかもしれません。そう聞いて、その他の地域に住む人はどのような感情を抱くでしょうか。

 ウイルスはどんどん変異していくので、現在開発しているワクチンが有効であるうちに何とか普及を急ぎたいところです。ただ、供給量に限りがある中では優先順位をつけざるを得ません。腰を落ち着かせてじっくりと議論する時間もない中で、ワクチンナショナリズムに効くクスリを見つけられるのでしょうか。

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