(画像:123RF)
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 α線内用療法は放射線治療の一種である。放射線治療は大きく3種類あり、(1)X線や陽子線、重粒子線などを外部から照射する治療、(2)ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)、(3)内用療法──となっている(図1)。(1)の外照射は照射する部位が決まっていなければいけないため、局所治療の一種であり、外科治療に近い。(3)の内用療法は、特定の臓器、細胞に集積しやすい薬剤に放射性同位体を結合させて投与するため、全身性に効果を発揮させられる点で薬物治療に近いといえるだろう。(2)のBNCTは(1)と(3)の中間的な性質があり、ホウ素製剤を投与し、外部から中性子線を当ててホウ素製剤を取り込んだ細胞でだけ反応が起きて放射線が放出されるため、外照射のような装置が必要だが、効果は全身性に期待できる。

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図1 放射線治療の種類と概要
図1 放射線治療の種類と概要
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 (3)の内用療法は、放射性同位元素で標識した化合物を静注、あるいは内服して、主にがん細胞を傷害する治療(図1右)。1940年ごろには、ヨウ素が甲状腺に集積しやすいことを応用し、ヨウ素の放射性同位体(113I)を内服して、131Iが放出するβ線によって甲状腺機能亢進症を治療したり、甲状腺がん細胞を傷害する内用療法が臨床応用されたりした。その後、いくつかの放射性同位体を使った治療が実用化されている。最初に行われた113Iによる甲状腺疾患治療が113Iを内服するものだったため内用療法と呼ばれているが、それ以外の治療のほとんどは静注薬となっている。なお、大阪大学核医学助教の渡部直史氏は「近年、核医学治療と呼ぶようになっている」と紹介する。

 α線は原子核から放出される粒子(陽子2個、中性子2個からなるヘリウム原子核)であり、β線は原子核から放出される電子だ。

 β線核種から放出されるβ線が届く距離は数mmで、細胞数百個分に相当する。一方、α線核種から放出されるα線が届く距離は数十μmで、細胞数個分(図2)。大阪大学核物理研究センターセンター長の中野貴志氏によると、「細胞に与える影響は、β線を拳銃の弾丸に例えると、α線は砲弾くらい大きい」と語る。大きなエネルギーで細胞の2本鎖DNAの2本とも切断するため、殺細胞活性は高い。

図2 α線とβ線の違い
図2 α線とβ線の違い
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 α線核種を使った内用療法では、2013年にカルシウムの同族元素であるラジウムの同位体(223Ra)を使った前立腺がん治療薬(ゾーフィゴ)が実用化された。この成功を期にα線核種への注目が高まり、さらに抗体やペプチドとα線核種を連結して標的とする細胞だけに送達する技術の進展と相まって、抗体薬物複合体(ADC)とほぼ同じ機序を持つ抗がん剤として開発が進められている。海外ではα線核種であるアクチニウム-225(225Ac)を使うα線内用療法の開発が先行している。世界中の研究機関が開発に取り組んでいることから、日本国内では225Acを入手しにくい状況が続いていた。そこで国内で取り組まれているのが、アスタチン-211(211At)を使った内用療法の開発だ。211Atは国内でも製造できるα線を放出する放射性同位体だ。

 アスタチンはハロゲン族元素で、フッ素(F)やヨウ素(I)と同族。そのため、ヨウ素と同じように扱えると期待されている。ただし、アスタチンは安定同位体が存在しないことから、アスタチンそのものの特性は十分に解明されていないのが現状だ。そのため、臨床試験での効果や安全性の検討とともに、物質そのものの研究もさらに進めていく必要があると考えられている。また、211Atを追うように、2022年4月、日本メジフィジックスが225Acの治験レベルでの製造体制を確立したと発表。225Acの国内供給にも道筋が付いた。放射性同位体の供給体制が徒撮ってきたことで、今後、α線内用療法の開発が加速していくと予想されている。