遺伝子の異常や欠損が原因となっている疾患に対して、治療に有用な遺伝子を体内あるいは細胞に導入することでその疾患を治療しようとする技術。世界初の遺伝子治療は1990年に米国で、先天的な免疫不全症であるADA欠損症の患者に対して実施された。その後、血液癌や血友病などで成果が積み重ねられつつある。これまでに世界で2000以上の臨床試験が行われ、日本でも30以上の遺伝子治療の臨床試験が実施された。

 遺伝子を効率的に細胞に導入するために、無害化したウイルスやプラスミド、リポソームなどをベクター(運び屋)として使用することが多い。最近では、免疫原性が低くて動物個体への遺伝子導入にも適しているアデノ随伴ウイルス(AAV)をベクターに利用するケースも増えている。

 ある種のウイルスは正常な細胞内ではほとんど増殖せず、癌細胞内でのみ増殖する。このようなウイルスを腫瘍溶解性ウイルスと呼び、癌局所に注入すれば顕著な抗腫瘍効果を発揮する。こうしたウイルス療法も遺伝子治療の一種だ。また、患者自身のT細胞を取り出し、CAR(キメラ抗原受容体)を作り出すようにT細胞を改変して体内に戻すCART療法やT細胞受容体導入T細胞(TCR)療法も遺伝子治療と見なせる。