アロステリック変異(allosteric mutation)とは、酵素の活性部位とは異なる部位に生じる変異のこと。例えば受容体型チロシンキナーゼでは、アロステリック変異がキナーゼドメインであるATP結合部位とは離れた部位に生じることで、蛋白質の立体構造が大きく変わる。受容体型チロシンキナーゼの発癌性は二量体化が前提条件となっているため、アロステリック変異に伴う構造変化が腫瘍の抑制もしくは促進に大きく関わることが知られている。ただ、キナーゼドメインに比べて選択的な阻害薬が見つけにくいため、アロステリック変異はこれまで創薬ターゲットになりにくかった。

 スイスBlack Diamond Therapeutics社はゲノムデータから癌遺伝子のアロステリック変異を検出し、これを創薬に結び付ける「MAP」(Mutation, Allostery and Pharmacology)と呼ぶ技術を開発し、概念実証(Proof of Concept)を終えている。MAPを使えば、酵素の調節ドメインや蛋白質間の界面エリアに生じる変異をマッピングできるので、アロステリック変異が生じた癌遺伝子の同定につながる。この癌遺伝子に対して選択的に働く薬剤をスクリーニングすることで、新しい抗癌剤の開発を目指している。

 同社はMAPを用いて、受容体型チロシンキナーゼの一種であるHER2や上皮成長因子受容体(EGFR)の遺伝子を調べ、アロステリック変異群を標的とする複数の創薬開発プログラムを進めている。