生物に多く存在するLアミノ酸(L体アミノ酸)の鏡像異性体。血液中など体内に存在する遊離アミノ酸や、蛋白質を構成する20種類を基本とするアミノ酸残基は、ほとんどがL体。Dアミノ酸は細菌のペプチドグリカンの構成成分など、限られた生体成分と考えられてきた。そのため、アミノ酸の分析は多くの場合、L体とD体を区別してこなかった。分析化学技術の進歩で区別した定量が可能になり、ヒトでもDアミノ酸が重要な生理機能を担っていることが分かってきた。脳内に豊富なDセリンは、記憶や学習に重要。脳や内分泌組織に豊富なDアスパラギン酸は、神経伝達の制御や内分泌系の調節に関与する。

 また、蛋白質を構成するアミノ酸残基についても、異性化や酸化、脱アミド化など様々な修飾を受けていることが分かった。白内障やアルツハイマー病などの加齢性疾患の原因蛋白質では、加齢とともに、D体のアミノ酸残基が蛋白質中に蓄積する。

 鏡像異性体の表記は高分子化学の分野ではあいまいさを排除するために通常、R体、S体と表記する。例外的に、アミノ酸や糖では、現在でもL体、D体と表記する。地球上ではアミノ酸はL体、糖はD体が主流。宇宙や地球における生物の進化の観点でも、アミノ酸など生体分子の鏡像異性体の分析が重要だ。