アルパカなどラクダ科動物の血清中から見いだされた特殊な抗体(重鎖抗体)の可変領域を利用した低分子量の天然のシングルドメイン抗体。

 重鎖抗体の分子量は9万(90kDa)程度で、通常のIgG抗体に比べ半分であり、重鎖抗体の一部であるVHH抗体の分子量は1万5000(15kDa)と、IgG抗体に比べて10分の1と小さく、耐酸性や耐熱性に優れる。VHH抗体は、変性しても生理的条件にすれば、適切な折り畳み構造が復活して活性が元に戻る。IgG抗体は培養細胞を用いて生産する必要があるが、VHH抗体は大腸菌や酵母で生産できる。VHH抗体は1本鎖のペプチドなので、蛋白質工学や化学修飾による機能の改変がしやすく、抗体薬物複合体(ADC)を作製しやすい。

 IgG抗体は可変領域が重鎖(VH)と軽鎖(VL)とで構成され、抗原を認識する相補性決定領域(CDR)はVHのCDR1とCDR2、CDR3、VLのCDR1とCDR2、CDR3の6カ所ある。これに対し、重鎖抗体は可変領域が重鎖のみで構成され、CDRはCDR1とCDR2、CDR3の3カ所のみ。抗体の抗原認識で一番重要なCDRであるCDR3の長さは、IgG抗体では7アミノ酸残基であるのに対し、重鎖抗体では24アミノ酸残基と、3倍以上長い。このようにCDR3が長いために、VHH抗体は、IgG抗体に比べ、抗原の中和抗体として機能する抗体の比率が高いとされる。その一方で、基質との親和性が高いVHH抗体を取得するのは難しい。

 VHH抗体の基本特許の権利を持つベルギーAblynx社は、VHH抗体を治療薬として開発を進めており、「ナノボディ」という商標で事業化を進めており、臨床試験のフェーズIIに進んだナノボディ抗体製剤もある。日本の企業では最近では大正製薬が、腫瘍壊死因子(TNF)αに対するナノボディの国内開発で契約したと2015年6月に発表した。日本におけるVHH抗体の研究は、鹿児島大学理学部有機生化学講座の伊東祐二教授の研究室や産業技術総合研究所などが進めている。