(画像:123RF)
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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック以降、感染症分野に強みを持つ塩野義製薬の動向は大きな注目を集めている。COVID-19に対する経口抗ウイルス薬「ゾコーバ錠」(エンシトレルビル)やワクチン(S-268019)の開発が進むにつれて株価が伸長し、2021年11月末には上場来高値となる8439円にまで上昇した。同社は2022年2月にゾコーバの製造販売を申請したが、6月末時点で承認には至っておらず、足元の株価は6000円台後半に落ち着いている。

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 ゾコーバは北海道大学と塩野義製薬の共同研究から創製された経口の低分子薬だ(開発コードは S-217622)。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)はウイルスを増殖する際に3CLプロテアーゼを利用するが、S-217622が3CLプロテアーゼを選択的に阻害することで、SARS-CoV-2の増殖を抑制すると考えられている。同社は2022年2月に、ゾコーバの条件付き承認制度の適用を希望する製造販売承認を申請した。さらに5月に緊急承認制度が導入されたことを受け、5月末に緊急承認制度の適用を求める申請も行った。緊急承認制度では、臨床試験の途中でも有効性が推定されれば、いくつかの条件や期限の下で承認を取得できる。

 厚生労働省は6月22日の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会でゾコーバの承認を審議したが、その結論は先送りとなった。承認の遅延に対するネガティブな反応から、翌23日の株価は一時的に10%下落した。ただし7月中にも開催される薬食審分科会で、改めてゾコーバの承認が審議される見込みだ。

図1 塩野義製薬(4507)の株価推移(週間終値、直近3年間)
図1 塩野義製薬(4507)の株価推移(週間終値、直近3年間)
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ゾコーバの海外展開が株価の変動要因へ

モルガン・スタンレーMUFG証券の村岡真一郎氏(調査統括本部アナリスト)
モルガン・スタンレーMUFG証券の村岡真一郎氏(調査統括本部アナリスト)
2000年4月、モルガン・スタンレー証券会社に入社。ヘルスケア業界を担当。1994年に東京大学大学院 (応用生命工学専攻) を修了。

 COVID-19の感染状況や国内市場の動向を踏まえ、モルガン・スタンレーMUFG証券の村岡真一郎氏(調査統括本部アナリスト)は、「ゾコーバの日本承認だけでは、大幅な株価上昇は期待しづらいと考えている」と語る。むしろ国内での承認取得後を見据えて、中国など海外での展開に注目しているという。「中国市場における可能性はまだ株価に織り込まれていない。具体的な話が浮上すれば、株価は大きく変動するだろう」と村岡氏は指摘する。

 2020年に塩野義製薬は、中国平安保険グループとの資本業務提携を発表した。上海と香港に設立された合弁会社の平安塩野義社では、平安グループの医療ネットワークやヘルスケアプラットフォームを生かし、新薬の中国展開を加速する方針だ。村岡氏は、「ゾコーバの中国での販売戦略を練る上で、平安グループとのネットワークは非常に心強いはずだ」と説明する。

 塩野義製薬はゾコーバと並行して、COVID-19ワクチン(S-268019)の開発も進めている。S-268019は、グループ会社のUMNファーマが有する昆虫細胞などを用いた蛋白質発現技術(Baculovirus Expression Vector System:BEVS)を活用した遺伝子組換え蛋白質ワクチンだ。2022年5月に開催された決算説明会では、国内で2022年6月か7月には承認申請し、正式承認を得て、2023年3月期下期の売り上げにつなげると説明があった。ただし村岡氏によると、「COVID-19ワクチンはある程度出そろっており、製造コストもかかる。承認を取得しても、ゾコーバほどのインパクトは見込みにくい」という。当面の間、市場の関心はゾコーバの承認に寄せられそうだ。

ドルテグラビルのパテントクリフをいかに乗り越えるか

 中長期的には、2028年から2029年ごろに抗エイズウイルス(HIV)薬「テビケイ」(ドルテグラビル)の特許切れを迎える。2021年度時点で、同社の売上高の約半分を抗HIV薬によるロイヤルティー収入が占める。そのため次の収益源をいかに創出するかが、喫緊の経営課題といえる。「ワクチンや治療薬で見込まれる売り上げの増加は一時的なものかもしれないが、塩野義製薬にとって大きなチャンスが到来したといえる。得た資金でどのような手を打っていくのか、今後の動向に注目している」と村岡氏は期待を込めた。