大学院生の募集サイト「tayo」
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 うちで研究しませんか──。大学の学部生や修士課程在学生に向けて、大学院生の求人広告を掲載しているサイトがある。日本初の大学院生募集サイト「 tayo 」だ。求人広告は大学単位ではなく研究室単位で作成されており、研究内容や雰囲気、学費など事細かな情報がキャッチコピーなどと共に見やすく並ぶ。このたびBeyond Next Ventures(東京・中央、伊藤毅CEO)と資本業務提携を発表した。研究者のキャリアパスを支援するサービスを充実させていく計画だ。

 tayoは2019年から運用を開始したサービスで、2021年6月現在、全国の大学院生やポスドクの募集広告約115件、バイオベンチャーなど企業の求人広告約15件が掲載されている。会員登録は不要で誰でも閲覧できる。サービスを運営しているのは、海洋研究開発機構の研究者である熊谷洋平代表取締役が設立した株式会社tayo(神奈川県横須賀市)だ。日本のアカデミアにおいて、キャリア選択のための情報が不十分であることや人材の流動性が低いことに課題を感じ、起業してtayoのウェブサイトを開設したという。

 tayoは2021年6月9日、Beyond Next Venturesとの資本業務提携を発表した。tayoのオンラインプラットフォーム機能とBeyond Next Venturesの事業経験やネットワークを融合させ、アカデミアのキャリア形成を後押しできる社会インフラを作るのが狙いだ。研究者に対し、最適な研究環境を選択するための支援や、卒業後に活躍できる機会を作るための支援を行い、大学院選択のみならずその後のポスト獲得、就職や起業も含めたキャリア選択をサポートしていく。

 tayoの熊谷洋平代表取締役に、サービスの理念と今後の展望を聞いた。

オープンな求人情報で自由な選択を

tayoのサービスは2019年に開始しました。大学院生向けの就職エージェントは既存のものが幾つかありますが、tayoの特徴は何ですか?

 とにかく情報がオープンであることを大事にしています。アカデミアの求人は公募文化なので、アカウントを登録してログインして見るよりも、自由に閲覧できる方が合っていると思うんです。

tayoの熊谷洋平代表取締役

 現在、多くの学生は自分のいる研究科の中から興味に近いところを選んで進学します。所属や分野を変える場合は、学会などでつくった人脈を頼ることが多い。それも選択肢は多くないし、大学や分野、地域によっては学外との交流の機会が少ないなど、情報格差も大きいですよね。

 全国に研究室は数万カ所あり、研究方針や研究主宰者(PI)の教育方針は研究室ごとに違います。首都圏の高偏差値の大学以上に成果を出している地方大学の研究室もあります。学生は「どこの大学か」でなく、「どこの研究室か」で選ぶべきだと思います。

 企業の求人を一緒に掲載しているのは、進路としてアカデミアと民間を並べて考えてほしいからです。就職エージェントに登録する行為は、「いよいよ就活するんだ」とスイッチを切り替える感覚があって、ハードルが高いでしょう。研究室を選ぶように民間企業も選べれば、そのハードルも下げられるのではないかと思います。

 例えばディープテックのベンチャーに関心のある大学院生は多いけれど、彼らには会社の情報を仕入れたり連絡したりする手段はあまりないのが現状です。そういった意味でも、広告を載せる意義は大きいです。研究室でも民間企業でも、やりたいことに近い場所を自由に選べた方が良い。別業界に移るなどで、一度アカデミアの人脈が途切れた人にも活用してもらいやすいと思います。

大学院生募集の広告がそれぞれ個性的です。研究室で得られるスキル、求める人材像など、さながら企業の採用情報のように独自色を打ち出していますが、これはtayoの方針ですか。

 多少アドバイスはしています。コアタイムの有無や研究の進め方など、教育方針はPIによって様々で、そうした「社風」が出ている募集記事へは応募も多いですね。PIの人間性が垣間見える方が、直接話を聞きたくなるのでしょう。

 研究室選びにも、会社選びと同じように市場原理が働いた方が良いと思っています。数ある研究室から、特色を知った上でさながら「企業研究」をして選ぶことができれば、より真剣になりますよね。それが、ひいては学生のレベルの底上げ、アカデミアの活性化につながると思っています。

アカデミアの課題は「閉塞感」

熊谷さんご自身も東京大学大学院で博士号を取得し、現在は海洋研究開発機構の特任研究員をされています。なぜ、アカデミア全体の活性化を目指してtayoを始めたのですか。業界にはどんな課題を感じていますか。

 私は海洋生物学と生物情報学を専門としていますが、2つの業界の格差が気になったのが発端です。海洋生物学分野は学位取得後の雇用環境が厳しく、周囲のポスドクは、将来の不安をよく口にしていました。対して生物情報学分野ではアカデミアでも引く手が多く、民間で高収入の職に就く人もいて雰囲気が明るかったんです。

 どちらも優秀な人材はたくさんいるのに、その人たちが進路をうまく見つけられるか否かには分野間で格差がありました。ポストや任期、活躍の場が限られる「閉塞感」が業界の課題だと感じました。

 そこで、自分がもし若手を指導する立場になったときには、民間の経験があればアカデミアだけでなく多彩な進路を示せるかもしれないと思いました。経験を積むためにITベンチャーへ勤務し、起業精神豊かな同僚と過ごすうち、「アカデミアで自分が何か解決できることは?」と考えるようになりました。

 情報が閉ざされていることによる閉塞感を打破するために、自分ができることを考えた時、思いついたのが学生募集の広告です。勤務したITベンチャーでも広告を扱っていたので、すぐ取り組めそうだと思ったのが、tayoの出発点でした。

最初は学生募集のみでしたが、現在は民間求人が追加され、最近では面白い研究や雑学を紹介するネット記事「tayoマガジン」もサイトに加わりました。今後はどう展開していく予定ですか。

 オンラインセミナーの開催や、共同研究募集も扱えればと思っています。tayoの名前は、アカデミアの“多様性”が増すように、との思いからきています。業界内外の情報交換や、人の流動性を高めるためのプラットフォームとして機能したいというのが根幹にあるのです。

 大学院生募集や民間求人も拡充したいですね。生物系の数が多いのが現状ですが、文系でも理系でも芸術系でも、分野は問わず広げていきたい。専門性が上がるほど、企業側が求める像にその人材が合うかどうかよりも、人材側が企業でやりたいことが叶うかどうかが重要になってきます。「ここなら自分を生かせそう」と思える場所を、前向きに探せるツールでありたいと思っています。

“社風”を打ち出すことでマッチングが円滑に
tayoを利用する筑波大学の尾崎遼准教授は、学生からよく聞かれる質問をFAQにまとめ、tayoの求人広告に掲載している。その結果、「入学に関する問い合わせの段階で、ある程度研究室のイメージを持っている学生が増えた」という。尾崎准教授の研究室ではtayoを通じて、県内外から既に2人を受け入れており、現在さらに4人が入学を検討中だ。また、広島大学で研究室を主宰する坊農秀雅特任教授の元にも、tayoを通じて県外から応募してきた大学院生が博士課程前期に入学した。2021年度も新たにtayo経由での問い合わせが入っているという。気軽に見られるtayoのような場所での情報公開は、地方大学の研究室などにとって特に有効な手段となりそうだ。