Heartseedの福田恵一社長と日本法人ノボ ノルディスク ファーマのOle Molskov Bech社長(右)

 Heartseed(東京・新宿、福田恵一社長)は、2021年6月1日、同社が重症心不全を対象に開発している他家iPS細胞由来心筋球(開発番号:HS-001)の全世界での開発・製造・販売について、デンマークNovo Nordisk社と独占的技術提携・ライセンス契約を締結したと発表した。契約一時金、マイルストーンの総額は最大5億9800万ドル(約655億円)。Heartseedの福田社長と、Novo Nordisk社の日本法人であるノボ ノルディスク ファーマのOle Molskov Bech(オーレ・ムルスコウ ベック)社長が同日、都内で開催された記者会見に登壇した。

 今回HeartseedはNovo Nordisk社に、日本以外の全世界で他家iPS細胞由来心筋球(HS-001、他家iPS細胞由来再生心筋球と同じ)を開発・製造・販売する独占的権利を付与した。Novo Nordisk社はHS-001の導入により、幹細胞を用いた非臨床段階の開発品を強化するとともに、数年以内にHS-001の臨床試験を開始する見通しだ。

 日本については、Heartseedが開発・製造・販売権を保持しながら、引き続きHeartseedが単独で開発する。承認取得後は、Heartseedがノボ ノルディスク ファーマと共同で販売する。承認後の製造は、Heartseedが企業治験向けの製造を受託しているニコン・セル・イノベーションが行う可能性も、米国にあるNovo Nordisk社の製造拠点で行う可能性もあり、今後両社で決定する。日本での開発費用や利益は、HeartseedとNovo Nordisk社が等分に負担する。

 心不全のうち、収縮不全を来す様々な疾患がHS-001の開発対象として想定されるため、今回の契約ではHS-001の適応症は問わない。また、投与方法も問わない契約内容となっている。

 契約によりHeartseedは、契約一時金と国内の企業治験の進捗などに基づく短期開発マイルストーンとして5500万ドル(約60億円)、その後の開発・販売状況に応じた開発・承認・販売マイルストーンとして5億4300万ドル(約595億円)、総額で最大5億9800万ドル(約655億円)を得る可能性がある。加えて、売上高に応じ、1桁台後半から2桁台前半%のロイヤルティーを受領する。

 Heartseedは、短期開発マイルストーンとして得る5500万ドルを、日本での開発に加え、技術の改良に充てる。また、条件及び期限付き承認が得られれば、その後の使用成績比較調査などに投じる計画だ。記者会見で福田社長は提携の理由について、「Novo Nordisk社は業界トップクラスの幹細胞治療(Stem Cell R&D)の専門組織を持ち、かつ、心不全の世界市場を攻略するのに豊富な資本力を有することから、ベストなパートナーと考えた。日本発の心筋再生医療を最速で世界に広げたい」と展望を語った。

 Heartseedによれば、最大5億9800万ドルは公表されている日本のバイオベンチャーの自社開発品の提携としては、これまでで最大の規模だという。同社の安井季久央取締役COOは、「この領域の事業機会を大きく評価してもらえた結果だと考えている」と話していた。

Bech社長、「Heartseedのデータは非常に説得力があった」

 HS-001は、Heartseedの社長を務める慶應義塾大学医学部循環器内科の福田教授の研究成果である、分化誘導技術や純化精製技術、移植針(デバイス)などの要素技術を活用し、開発されている細胞医薬。京都大学iPS細胞研究所(CiRA)から供給されたヒト白血球抗原(HLA)3座ホモの他家iPS細胞を心筋細胞に分化誘導し、未分化細胞を除き、心筋球と呼ばれる微小組織にして専用移植針で移植する。これまでの研究から、免疫不全(NOG)マウスやカニクイザルの心筋梗塞モデルを用いた動物実験で、他家iPS細胞由来心筋球の安全性や有効性が確認されている。

 2020年8月、慶應義塾大学病院のHS-001の臨床研究の実施計画が、厚生労働省の厚生科学審議会再生医療等評価部会で了承され、2021年秋にも拡張型心筋症による重症心不全を対象とした臨床研究が開始される見込み。また、Heartseedは、医薬品医療機器総合機構(PMDA)にHS-001の企業治験の治験届を提出し、2021年3月に調査が終了。こちらも2021年後半に、虚血性心疾患による重症心不全を対象とした国内第1/2相臨床試験(LAPiS試験)を開始する計画だ。臨床研究や企業治験では、他家iPS細胞由来再生心筋球を新規デバイスである専用移植針(新規デバイス)で投与しており、HS-001は新規デバイスが一体となった再生医療等製品の候補品として開発が進んでいる。

 記者会見での主な一問一答は以下の通り。

提携先にNovo Nordisk社を選んだ理由について。

福田社長 これまで国内外の複数の製薬企業と交渉してきたが、Novo Nordisk社が最適の提携先だと考えて選んだ。我々の心筋再生医療を世界に届けるには、資本力のある大手製薬企業が必要であり、また、Novo Nordisk社は糖尿病領域でのプレゼンスが極めて高い。さらに、Novo Nordisk社には、幹細胞治療の専門組織があり、200人の研究者が在籍している。

 デューデリジェンスが進む中で、Novo Nordisk社からは様々な質問を受けたが、その数も質も他とは違った。実際、2000個以上の詳細な質問が飛んできて、受け答えをする中で、そのレベルの高さを実感した。過去には、日本企業のデューデリジェンスを受けたこともあるが、レベルが違った。リソースがあり、世界展開でき、技術への理解が深い相手を選ぼうと思い、必然的にNovo Nordisk社になった。

臨床研究や企業治験でのHS-001の投与はこれからだ。ヒトでの安全性や有効性のデータが無い中で、契約の決め手になったのは。

Bech社長 我々としては、幹細胞治療にしっかりフォーカスしたいと思っている。確かにまだヒトでのPOCを得る前ではあるが、Heartseedのデータは非常に説得力があり、今回のタイミングで提携するのが適当だと考えた。両社が協力することにより、単体で進めるよりも早く開発できることも大きかった。

今回導入したHS-001の心筋再生医療はどの程度のポテンシャルを持っていると考えているか。糖尿病領域の事業との相乗効果は。

Bech社長 重症心不全をはじめとする心血管疾患は主な死因の1つであり、負担も大きい。大きなアンメット・メディカル・ニーズ(UMN)があると考えている。また、糖尿病領域とは大きな重複部分がある。糖尿病と心疾患は実は連続しているが、多くの糖尿病患者は、残念ながら心疾患のリスクを十分認識しておらず、心筋梗塞を発症する患者も多い。そうした患者にとって、心筋再生医療は助けになるだろう。

買収ではなく、提携という形になった理由は。

福田社長 Heartseedとして、製造販売を手掛ける会社になりたいと考えている。夢は、Heartseedが日本のAmgen社になること。大言壮語ではあるが、大きな夢は語らないと成就しない。Heartseedでは、HS-001の後もさまざまな領域を手掛けていきたいと考えている。今回の提携は最初の第一歩。これから第二歩、第三歩も、しっかり準備して飛躍を遂げたい。

現状、幹細胞治療の開発状況は。また今回、HS-001を導入した理由は。

Bech社長 現在、臨床開発段階にある幹細胞治療(細胞治療)のパイプラインはない。ただ、前臨床段階には、自社技術を応用した重症のパーキンソン病、1型糖尿病、加齢黄斑変性(AMD)を対象とした幹細胞治療プログラムがある。幹細胞のソースとしては、ES細胞もiPS細胞も両方扱っている。

 幹細胞治療のプログラムは、前述の通りUMNがあることに加え、効果が期待できる領域(疾患)であることが重要だと考えている。様々な領域において、組織を標的とした限局的な治療が提供できるようになれば、再生医療は有望だ。

日本以外でのHS-001の開発計画は。

Bech社長 詳細は把握していないが、薬事をクリアした上で、おそらく数年先に臨床試験を開始するのではないか。開発国・地域はまだ決まっていないが、欧州や米国で先行して臨床試験を実施することになるだろう。

福田社長 日本では、安全性の担保と有効性の推定ができれば条件及び期限付き承認が得られる。Heartseedの企業治験は、2021年秋から実際にスタートする予定だが、実施期間は2年間。順調に進めば、最も早くて3年後には日本で条件及び期限付き承認が得られるだろう。日本ではその後、使用成績比較調査で症例を蓄積し、有効性を確認して正式な承認を得ることになる。

 一方それ以外の国・地域に関しては、日本の治験を先行させつつ、米国や欧州などでグローバルでの共同治験が進むことを願っている。日本の状況を参考にしながら、グローバルでも同時並行で開発が進むと期待している。

HS-001の競合状況や優位性については。

Bech社長 同じ幹細胞治療という意味では、幾つもの企業が同様の技術を追求・開発している。ただ、心筋は、強力に収縮し、拍動しなければ治療できない。分化誘導された心筋細胞の質、精製純化、収縮能の高さなどの点で、HS-001には優位性があると考えている。HS-001は、心筋球にすることによって生着率が高まり、本当に強力な収縮能をもたらす。これまでいろいろな技術を見てきたが、Heartseedの技術は効果的治療をもたらすことのできる候補品だと考えている。

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