(画像:123RF)
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 厚生労働省は2021年5月20日、薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会を開催し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチン2品目の特例承認を了承した。早ければ2021年5月21日にも特例承認される見通し。

 承認が了承されたのは、アストラゼネカの「バキスゼブリア筋注」と、武田薬品工業の「COVID-19ワクチンモデルナ筋注」の2品目。厚労省医薬・生活衛生局医薬品審査管理課の担当者によれば、第二部会では、アストラゼネカのワクチンのまれな副反応である血栓への対応などを中心に、専門家の議論が行われたという(詳細は末尾の一問一答を参照)。

 アストラゼネカの「バキスゼブリア筋注」(コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン(遺伝子組換えサルアデノウイルスベクター))の審査結果の概要は以下の通り。

表1 アストラゼネカの「バキスゼブリア筋注」
製品名「バキスゼブリア筋注」
申請者アストラゼネカ
一般名コロナウイルス(SARS-CoV-2)ワクチン
(遺伝子組換えサルアデノウイルスベクター)
効能・
効果
SARS-CoV-2による感染症の予防
接種回数など4~12週間隔で2回接種、筋肉内注射/18歳以上の成人
保管温度など冷蔵保管(2~8℃)で6ヵ月
10回分/1バイアル
注意を要
する集団
(1)高齢者:接種に当たっては、問診等を慎重に行い、被接種者の健康状態を十分に観察すること。
(2)妊婦:予防接種による有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること。
(3)小児:18歳未満を対象とした臨床試験は実施されていない。

 「バキスゼブリア筋注」は、英University of Oxfordが創製したウイルスベクターワクチン。チンパンジーから単離し、弱毒化させたアデノウイルスベクター(ChAdOx1)に、スパイク(S)蛋白質遺伝子を導入した遺伝子組換えウイルスベクターワクチン(開発番号:AZD1222)である。接種後に体内でスパイク蛋白質が発現し、スパイク蛋白質に対する中和抗体や細胞性免疫など、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)への免疫を誘導する。

 2020年4月、University of Oxfordは、英AstraZeneca(AZ)社と全世界での開発、製造、供給で提携。全世界で複数の臨床試験や国内での第1/2相臨床試験(18歳以上の256例を対象)が実施され、今回の特例承認に至った。複数の臨床試験を併合解析した有効性(発症予防)は、70.4%等に上る。これは接種から一定期間後までに「ワクチン接種群で疾患を発症した被験者の数」と「プラセボ接種群で疾患を発症した被験者の数」を比較して、ワクチンの接種によって疾患になるリスクを減らせた割合のことだ。

 日本政府は、AZ社と1億2000万回分のワクチン供給を受けることで合意している。また、アストラゼネカは、JCRファーマと国内でのワクチンの原薬製造について業務委託契約を締結。1億2000万回分のうち、9000万回分以上の原薬をJCRファーマが製造する計画だ。アストラゼネカの広報担当者は、「特例承認が得られた後、まずは、米国で製造したワクチンを日本に輸入する。その後順次、JCRファーマが原薬を製造したワクチンに切り替える予定だ」と話していた。

 なお、AZ社のワクチンについては、ワクチン接種との因果関係が否定できない有害事象として、非常にまれな血小板減少症を伴う血栓症が各国で報告されている。2021年5月14日に開催された厚生科学審議会予防接種部会・ワクチン分科会の資料によれば、英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)は、2021年3月時点でAZ社のワクチンを接種した100万人当たり約4人が血小板減少を伴う血栓症を発症、カナダ保健省(Health Canada)は、2021年4月20日までにAZ社のワクチンが70万回以上の接種され3例がワクチン誘発性免疫性血小板減少症(VITT)を発症したというデータを公表しているという。こうした報告を受けて欧州医薬品庁(EMA)は、2021年4月7日、血小板減少を伴う異常な血栓を、非常にまれな副反応に位置付けるべきとしつつ、全体として、AZ社のワクチンがCOVID-19を防ぐベネフィットは、副反応のリスクを上回ると指摘している。

 武田薬品の「COVID-19ワクチンモデルナ筋注」(コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2))の審査結果の概要は以下の通り。

表2 武田薬品の「COVID-19ワクチンモデルナ筋注」
製品名「COVID-19ワクチンモデルナ筋注」
申請者武田薬品工業
一般名コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2)
効能・
効果
SARS-CoV-2による感染症の予防
接種回数など4週間隔で2回接種、筋肉内注射/18歳以上の成人
保管温度など冷凍保管(-25~-15℃)で6カ月
10回分/1バイアル
注意を要
する集団
(1)高齢者:接種に当たっては、問診等を慎重に行い、被接種者の健康状態を十分に観察すること。
(2)妊婦:予防接種による有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ接種すること。
(3)小児:18歳未満を対象とした臨床試験は実施されていない。

 「COVID-19ワクチンモデルナ筋注」は、米Moderna社が米国立衛生研究所(NIH)傘下の米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)と共同で創製したmRNAワクチン。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイク蛋白質の遺伝子をコードしたmRNAと脂質ナノ粒子(LNP)の複合体(開発番号:mRNA-1273/TAK-919)である。取り込まれた細胞内でmRNAからスパイク蛋白質が発現し、スパイク蛋白質に対する中和抗体や細胞性免疫など、SARS-CoV-2への免疫を誘導する。

 Moderna社は2020年10月、武田薬品、厚労省とModerna社のワクチンを国内で供給することで合意。Moderna社が米国などで臨床試験を行った他、武田薬品が国内での第1/2相臨床試験(20歳以上の200例を対象)を実施し、今回の特例承認に至った。これまでの臨床試験で示された有効性(発症予防)は、94.1%に上る。これは接種から一定期間後までに「ワクチン接種群で疾患を発症した被験者の数」と「プラセボ接種群で疾患を発症した被験者の数」を比較して、ワクチンの接種によって疾患になるリスクを減らせた割合のことだ。

 日本政府は、Moderna社、武田薬品と5000万回分のワクチン供給を受けることで合意している。さらに一部報道では、追加で5000万回分の供給についても協議されているという。

 第二部会後に開かれた記者説明会における、厚生労働省担当者との一問一答は以下の通り。

第二部会での議論を改めて聞きたい。正式な特例承認はいつになるのか。

 第二部会では、2品目とも特例承認して差し支えないという結論が得られた。早ければ、明日(2021年5月21日)に特例承認される。

 2021年5月21日10時から開催される厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会で、2品目の接種を国内でどう進めるのかが議論される予定だ。ただし、予防接種・ワクチン分科会に意見を聞くに当たり、その前に正式な特例承認の手続きが得られていなくても分科会は開催可能だと理解している。

アストラゼネカのワクチンについては、海外でまれに血栓の有害事象が報告されている。第二部会での議論は。

 血栓症の話題が議論の大半を占めた。ただ、血栓症のリスクについては全体として「適正な診断と処置がされれば、マネジメントが可能だろう」という評価となった。もちろん、そうした診断や処置が適正にされなければならないので、現在、日本脳卒中学会と日本血栓止血学会の協力を得て、(血栓症の)診断・治療の手引きを作成してもらっており、それを医療従事者に適切に情報提供する。同手引きについては、できる限り早く、遅滞なく公表したい。

 血栓症については、ワクチン接種を受ける被接種者にも、打ってからどのぐらいの期間注意する必要があるのか、どういう初期症状が出るのかなど、しっかり情報提供をする必要がある。例えば、初期症状の1つである頭痛などは、接種後2週間が起きやすいと考えられるが、安全性を重視し、28日程度は被接種者に注意していただければと考えている。こうした対応ができれば、血栓症はコントロールされたリスクと評価できる。第二部会では、それを踏まえた安全性と、約70%の有効性とのバランスを考え、特例承認して差し支えないという結論を得た。

AZ社の1回目のワクチン接種後、血栓症を発症した場合は。

 1回目の接種後に血小板減少症を伴う血栓症を発現した場合は、接種不適当者となる。1回目の接種後、2週間以内に頭痛や痙攣などが認められた場合は、医師の診察を受けるように指導する。

AZ社のワクチンは、国内では4週間隔で接種する臨床試験が行われたが、今回の審査結果では4~12週間隔となった。

 複数の臨床試験を併合解析した結果、4~12週間隔で有効性が確保されるだろうということで、この接種間隔になった。当初は4週間を想定していたが、様々な臨床試験の結果が出てくるにつれて、徐々に間隔が変わったということだ。

第二部会では、AZ社のワクチンと血栓症の因果関係についてはどう評価したのか。

 欧米での評価の範囲内だ。因果関係が否定できないというのが海外の評価であり、第二部会でもその範囲で理解している。

AZ社のワクチン接種後、血栓症を発症した症例の多くは、接種後2週間以内に、60歳以下の女性で発生している。

 第二部会では、事実として、そういう事実がありますね、という確認はあった。年齢、性別についての事実はその通りだ。ただ、血栓症のリスク要因として、性別や年齢が該当するというところまで断定するのは困難だと判断した。血栓症に関連して年齢制限を付ける必要はないだろうという結論を得た。

特例承認された際の承認条件は。

 特例承認なので、長期の安全性について今後臨床試験などのデータが得られれば、求めていく方向だ。ファイザーの新型コロナウイルス感染症ワクチン「コミナティ筋注」(一般名:コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2))のような調査を実施するかどうかなどは、2021年5月21日の厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会でも若干触れられるだろう。現時点では詳細を説明しかねる。

医薬品医療機器等法(第14条の3)では、特例承認の要件の1つに「当該医薬品の使用以外に適切な方法がない」が含まれている。ただ、国内ではファイザーの新型コロナウイルス感染症ワクチン「コミナティ筋注」(一般名:コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2))が承認されており、今回特例承認が了承された2品目以外に適切な方法がないわけではない。

 現状、日本政府はこれまで米Pfizer社と1億9400万回分の契約を結んでいるが、少なくともPfizer社単独では足りない(ので特例承認の要件は満たしている)。

2品目の添付文書、審査報告書は、いつ公開されるのか。

 ファイザーの「コミナティ筋注」のときと同様、添付文書は特例承認時に速やかに公開する。審査報告書も速やかに公開する方針だ。

特例承認とは
 医薬品医療機器等法(第14条の3第1項)の規定に基づき、(1)疾病のまん延防止等のために緊急の使用が必要、(2)当該医薬品の使用以外に適切な方法がない、(3)海外で販売等が認められている――という要件を満たす医薬品について、臨床試験以外の承認申請資料を、承認後の提出としても良いなど特例的な承認をする制度。