シシリアンルージュハイギャバの苗配布開始を発表したサナテックシードの竹下達夫・代表取締役会長(左)と江面浩・取締役最高技術責任者
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シシリアンルージュハイギャバの苗配布開始を発表したサナテックシードの竹下達夫・代表取締役会長(左)と江面浩・取締役最高技術責任者

 筑波大学発ベンチャーのサナテックシード(東京・港)と筑波大学は2021年4月23日、ゲノム編集技術を利用して開発したGABA高含有トマト「シシリアンルージュハイギャバ」の苗配布を開始する説明会を、筑波大学筑波キャンパスにて報道関係者向けに開催した。サナテックシードの取締役最高技術責任者も務める江面浩・筑波大学教授は「シシリアンルージュハイギャバの特性について」、サナテックシードの竹下心平取締役社長は「シシリアンルージュハイギャバの苗の配布およびモニターとのコミュニケーションについて」、サナテックシードの竹下達夫代表取締役会長は「シシリアンルージュハイギャバの一般販売について」と題する発表を行った。

 シシリアンルージュハイギャバは、ゲノム編集ツールであるCRISPR/Cas9を用いたゲノム情報の改変により、γアミノ酪酸(GABA、ギャバ)の含有量を親系統のシシリアンルージュCFに比べて4~5倍に高めた系統(品種登録を出願中)。2020年12月11日にサナテックシードが厚生労働省や農林水産省に届け出や情報提供を行ったゲノム編集育種トマト系統#87-17の後代(T2以降)を、シシリアンルージュCFと交配して誕生した雑種第一世代(F1)だ。

 12月11日の厚労省への届け出はゲノム編集技術応用食品として、農水省への届け出はゲノム編集飼料として、そして農水省への情報提供はカルタヘナ法における「遺伝子組換え生物等」に該当しない生物としてだった。カルタヘナ法は、2000年の生物多様性条約特別締約国会議再開会合において採択され、03年に締結された「生物の多様性に関する条約のバイオセーフティに関するカルタヘナ議定書(カルタヘナ議定書)」に対応するための国内法。日本は、カルタヘナ議定書の締約国の中でいち早く、ゲノム編集生物への対応を2019年に明確化した。カルタヘナ議定書の締約をしていない米国などでは、ゲノム編集農作物の実用化・社会実装が拡大しているが、ゲノム編集トマトの商業化はサナテックシードが世界で初めてという。

無償モニターの申し込みは5000件超

 サナテックシードは2020年12月に産業化に必要な一連の手続きを完了し、まずはシシリアンルージュハイギャバの苗を家庭菜園で育てる無償モニターの募集を開始した。無償モニターを希望する申込数は12月末に3300件、2021年1月末に4300件に達し、5000件を超えた2月26日に受け付けを終了した。1家庭で複数の申し込みがあった場合は1件のみに絞り込むなどの対応により、5000件を対象に1件当たり4つの苗を提供することを決定した。受け取った家庭で栽培を始めると35日ほどでトマト果実を収穫できる状態の苗に加え、土壌や肥料など栽培に必要な資材もセットにして各家庭に送付する。

 送付開始は5月中旬から開始する。トマトは霜が降りるとダメージを受けるので、温暖な地域から順に、配送する。首都圏への配送開始は5月20日過ぎごろになる見込み。6月中に、家庭菜園で収穫したGABA高含有トマトを味わうことができる見通しだ。

筑波大学筑波キャンパスの隔離温室では、シシリアンルージュハイギャバが栽培され、実(果菜)を付けていた(提供:サナテックシード)
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筑波大学筑波キャンパスの隔離温室では、シシリアンルージュハイギャバが栽培され、実(果菜)を付けていた(提供:サナテックシード)

 4月23日の説明会では、筑波大筑波キャンパス内の隔離温室で栽培されているシシリアンルージュハイギャバの状況が公開され、また収穫したその実を試食できた。味は、イタリア発の調理用トマトながら生食でもおいしいと人気のシシリアンルージュと変わりないという。シシリアンルージュは、イタリアのブリーダー(育種家)が開発した品種。サナテックシードへの出資比率が92%であるパイオニアエコサイエンス(東京・港)が種苗を日本に輸入販売している。

 サナテックシードの竹下心平社長は、05年にパイオニアエコサイエンスに入社して最初に担当したトマトがシシリアンルージュだったと話した。シシリアンルージュに由来する品種は現在では25に増えたという。竹下心平社長はパイオニアエコサイエンスの取締役CTOで国際部長兼新規事業担当部長も務めている。

 サナテックシードは、5月中旬に始める苗の家庭菜園向け無償提供の準備を整えるとともに、一般販売に向けた準備も開始した。

加工食品の価格は1日当たり150~200円

 シシリアンルージュハイギャバの契約栽培を農家で行い、収穫したトマトを全量買い取り、粉末やピューレなどの食品に加工し、消費者にオンラインで販売する。加工食品の価格は、1日摂取目安量当たり150~200円にすることを決定したと、竹下心平社長は話した。加工食品の販売開始は2021年冬の計画。パイオニアエコサイエンスは4月23日、ピューレの先行予約ページを同社ウェブサイトにて公開した。

 パイオニアエコサイエンスの代表取締役社長を務めるサナテックシードの竹下達夫代表取締役会長は、ゲノム編集トマトの事業展開構想を発表した。家庭菜園農家向けに苗と土壌改良剤(微生物)、肥料を配布するのをフェーズ1と位置付け、フェーズ2として有料のマーケティングを実際に始める。

 フェーズ2では、消費者に直接製品を届けるD2Cを実践することを決めた。パイオニアエコサイエンスとしては初めての挑戦となる。「悩んだ末の結論」と竹下達夫代表取締役は話した。青果物も流通に乗せていくが、まずは加工品を優先する。

 事業拡大に向けて情報通信技術(ICT)・デジタル技術の活用を強化している。無償モニターには、LINEなどを通じてキメ細かな栽培指導を行う。パイオニアエコサイエンスのLINE公式アカウントに友達登録すると、シシリアンルージュハイギャバの育て方に関する情報を入手できる。さらに「栽培オンライングループ(無料)」に入会すると、「栽培Q&A」や「育てるひろば」などを利用できる。

 さらに3月には、農家のスマホに直接つないでデータを共有し、個別の栽培指導を行うビジネスモデルを実践するための新会社PsEco(東京・港)を設立した。パイオニアエコサイエンスはすでに、農家の水質や土壌、作物の栄養元素の分析データから栽培管理を行うサービスを行ってきた。肥料や農薬の最適配分を指導し、できるだけ微生物によるバイオロジカルな手法を用いて栽培することにより、トマトやイチゴの農家の収量を2倍以上にし、秀品率を大幅に向上させてきた実績があるという。

 サナテックシードはシシリアンルージュハイギャバの加工食品の販売では、GABAの健康機能を訴求していきたい考えだ。日本で2015年度から運用が始まった機能性表示食品の制度において、GABAは最も届け出件数が多い機能性関与成分だ。血圧高め、ストレス・疲労感、活気・活力、睡眠、肌弾力、認知などの対策に役立つ届け出を、消費者庁が受理している。

 これらの健康効果が臨床試験(ヒト介入試験)で確認されているGABAの1日目安量の多くは、12.3~28mg程度。シシリアンルージュハイギャバを加工したジュレだとおよそ2gほどで、十分な量のGABAを摂取できるという。

GABA機能性の生鮮トマト届け出は既に7件

 消費者庁が公開している機能性表示食品の届け出情報によると、GABAを機能性関与成分とする機能性表示食品は、480件近く(撤回を含む)の届け出が行われ、そのうち260件近くの商品が「販売中」。機能性表示食品の届け出件数は2021年4月20日更新にて3979件(撤回を含む、最新の届出日は2021年3月18日)。GABAを機能性関与成分とする機能性表示食品が全体の12%近くを占めている。

 加工食品に含まれる機能性関与成分のGABAの多くは、遺伝子組換え技術で育種された微生物で生産されたグルタミン酸(ただし高度精製品なので遺伝子組換え食品には分類されない)を、乳酸菌などのグルタミン酸脱炭酸酵素. (GAD)でGABAに変換したもの。サナテックシードのゲノム編集GABA高含有トマトは、トマトがもともと持っているGAD遺伝子の一部をゲノム編集で切除し、GABAを多量蓄積できるように工夫したトマトだ。

 GABAを機能性関与成分とする生鮮食品では、トマト、ケール、メロン、ブドウ、エノキタケ、パプリカ、バナナ、ヘチマなどの届け出がある。生鮮食品では、血圧高め対策の機能が報告されているGABA1日摂取量12.3mgの半量を、1日摂取目安量に含んでいれば、血圧高め対策の機能性表示を行える。この運用は、GABAのような一般的な食品成分は、意識・意図しなくても日常の食生活で摂取しているため、機能性表示食品として摂取する量は有効量の半分でも意味がある、という考え方に基づくものだ。

 GABAを機能性関与成分とする生鮮トマトの届け出は7件あり、そのうち6件は販売中。一般に、トマトは栽培条件を整えるとトマトの実に含まれるGABA含有量を増やすことができるが、果菜の生産量は一般の栽培条件に比べると低下しがち。一方、サナテックシードのシシリアンルージュハイギャバは、通常のシシリアンルージュと同じ栽培条件にてGABA高含有のトマト実を得られるため、生産量は高いとされる。

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