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 英国政府は、2020年10月20日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン開発を後押しする目的で、ヒトでのチャレンジ試験(曝露試験)を英国内で実施するため、産官学が協力すると発表した。規制当局や医療機関の研究倫理委員会(IRB)の承認が得られれば、第1段階の臨床試験は2021年1月にもスタートし、2021年5月に結果が得られる見通しだ。

 ヒトでのチャレンジ試験は、開発中のワクチンを短期間かつ小規模で評価するための臨床試験の手法の1つ。臨床試験の被験者にワクチンを接種した後、実際の病原体である、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)にあえてさらし、ワクチンの安全性や有効性を評価するという、ヒトを対象としたin vivo試験である。

 現状、COVID-19のワクチン開発に向けては、数万例の被験者をランダム化し、ワクチンまたはプラセボを投与して安全性や有効性を比較する、大規模な第3相臨床試験(野外試験)が複数実施されている。しかし、そうした野外試験では、COVID-19の流行状況によっては病原体(ウイルス)に曝露する可能性が低く、有効性を評価するために一定数の発症者が出るまで長期間試験を継続する必要がある。もし、ヒトでのチャレンジ試験が実現すれば、臨床試験に要する期間が短縮される上、安全性や有効性が定かでない、開発中のワクチンの接種を受ける被験者数を減らすこともできる。

 世界保健機関(WHO)のワーキンググループは、2020年5月6日、COVID-19のヒトでのチャレンジ試験が倫理的に受け入れられるようにするためには、8つの主要な基準を満たすべきであるとするガイダンス「Key criteria for the ethical acceptability of COVID-19 human challenge studies」を公表した。

 ガイダンスでは、8つの主要な基準として、(1)強い科学的正当性、(2)リスクと潜在的ベネフィットの合理性、(3)一般市民や専門家、政策立案者への通知と相談、(4)試験関係者や規制当局、政策立案者間での緊密な調整、(5)科学、臨床、倫理面で試験を遂行できる施設の選択、(6)リスクを抑え、最小化するための被験者の選択、(7)独立した専門委員会による審査、(8)厳格なインフォームドコンセント──を挙げ、こうした基準が満たされれば、ヒトでのチャレンジ試験を実施し得るとの見解を示している。

まずは曝露させるウイルス量を臨床試験で決めるところから

 今回の英国政府が実施を検討しているヒトでのチャレンジ試験は、こうしたWHOのガイダンスを踏まえた上で、実施される。具体的には、少数の健康な成人被験者を対象とし、早期臨床試験で安全性が示されたワクチン候補を被験者に投与した上で、安全かつ管理された環境下でSARS-CoV-2に曝露させる。その後、24時間体制で被験者への影響を綿密にモニターし、ワクチンの有効性や副作用(副反応)など安全性を検討するというものだ。その際は、実施施設への入室管理、廃棄物の浄化、検査ラボの専用化など、厳格に定められた環境下で実施する。また、実施施設から放出される空気も浄化され、施設外へのリスクが無くなるようにする。

 もっとも、ヒトでのチャレンジ試験の実施に当たり、まず必要になるのは、COVID-19の感染を成立させる最小限のウイルス量を検討することだ。そのため英国では、第1段階として、最もリスクの低い18歳から30歳までの健康な若年成人、最大90例を被験者とした臨床試験を実施することが計画されている。この第1段階の臨床試験は、英Imperial College Londonと英Royal Free Hospital、医薬品開発受託機関(CRO)の英Open Orphan社傘下でヒトでのチャレンジ試験などを手掛けるhVIVO社が共同で行う。実施施設は、Royal Free Hospitalの専用施設になる予定だ。英国政府は今回、第1段階の臨床試験などに3360万ポンド(約46億円)、臨床試験の血液サンプルの解析体制強化に1970万ポンド(約27億円)を投じる。

 なお、第1段階の臨床試験も含め、英国でのヒトでのチャレンジ試験の実施に際しては、他の全ての臨床試験と同様、医薬品・医療製品規制庁(MHRA)や英国民保健サービス(NHS)の医療研究機構(Health Research Authority)などの規制当局や医療機関のIRBが、開始の可否を慎重に検討する。

 英国政府によれば、これまで数十年間、マラリアや腸チフス、コレラ、ノロウイルス、インフルエンザなどの治療法を迅速に開発する上でヒトでのチャレンジ試験が役割を果たしてきた。また、数千例を対象とする第3相臨床試験に向け、開発成功確率の高いワクチンを確立するのにも、ヒトでのチャレンジ試験が役立ってきたという。