左から横浜市立大学医学部の梁明秀教授、山中竹春教授(提供:横浜市立大学)

 横浜市立大学は2020年7月28日、オンライン記者会見を開催。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の回復期患者(回復者)を対象に、PCR検査で陽性と判定された日から最大1年後まで、血中の抗体価や中和抗体の有無などを追跡する観察研究を開始すると発表した。研究への参加者の募集は2020年8月から開始し、検査は9月上旬から開始する予定だ。

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)などの病原体に感染すると、体内では複数種の抗体が産生される。ただ一般に、抗体の中にはウイルスの細胞への侵入を阻止する作用(中和作用)を持つものと持たないものがある。横浜市立大学医学部の山中竹春教授は、「体内でウイルスに対する中和作用を持つ抗体(中和抗体)が産生されていれば、ウイルスに対する免疫を獲得したといえる。ただ、一般の抗体検査は技術的に測定しやすい抗体を測定するものであり、体内で中和作用を持つ抗体(中和抗体)が産生されているか判断できない」と説明。続けて、「特にCOVID-19に関しては、感染から時間が経過しても体内に抗体が残存するのか、また、抗体が残っていたとしても中和作用を持つのか、といったことも明らかになっていない」(山中教授)と指摘した。

 そこで同研究では、COVID-19の回復者を対象に血中の抗体価や、中和抗体の有無を追跡する。対象は、(1)過去にPCR検査などでSARS-CoV-2が陽性となった、(2)採血前の2週間以内に発熱や呼吸困難などの症状が無い──など複数の条件を満たした国内在住の成人。目標症例数に関しては、「数十例では十分な結果が得られない可能性があるため、300人から400人程度の方に参加してほしい」(山中教授)と訴えた。採血は1回7mL程度、参加者がPCR検査などで陽性となった日から、約半年後(20週から32週後)と約1年後(46週から58週後)にそれぞれ実施する。

 抗体の定量では、「主に全自動の化学発光酵素免疫測定装置を利用する」(横浜市立大学医学部の梁明秀教授)。また、中和抗体の検証では通常、抗体によって細胞へのSARS-CoV-2の感染をどれだけ防げるかを評価する必要がある。ただし、SARS-CoV-2はバイオセーフティーレベル(BSL)3以上の施設でしか扱えないため、本物のSARS-CoV-2を利用した研究はハードルが高い。そのため、同研究では、BSL2の施設でも取り扱い可能な、レンチウイルスベクターの表面にSARS-CoV-2のスパイク(S)蛋白質を発現させたシュードタイプウイルスや、内部にウイルスゲノムを含まないウイルス様粒子(VLP)などを使用する。他にも、「状況に応じて様々な手法を利用する」(梁教授)予定だ。

 山中教授は、「今回の研究は、COVID-19を対象に、回復者の抗体価などを中長期的に追跡する国内初の大規模な研究となる。同研究で得られる情報は、今後のワクチン開発や、既感染率を正確に推定するのに役立つ可能性がある」と期待を寄せる。なお、抗体や中和抗体の測定結果は参加者に通知される。

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会見にはフリーアナウンサーの赤江珠緒氏も同席、新型コロナウイルスに罹患し、回復した立場から観察研究に協力する

 同研究は、日本医療研究開発機構(AMED)の支援を受けて実施される。また、採血を実施する医療機関については、東京都医師会や神奈川県医師会から紹介を受け、合計20施設となる予定だ。山中教授は、抗体検査の開始時期について、「COVID-19の感染の第1波が訪れた2020年3月ごろから約半年が経過した9月上旬をめどに開始する」と説明。また、同研究は2023年3月まで実施される予定だが、「9月以降の初期の解析結果が分かり次第、速やかに結果を公表する」(山中教授)としている。

 同会見で梁教授は、抗体依存性感染増強(ADE)についても言及。「非常に重要な研究課題だと考えている。多くの専門家がADEの可能性について触れているが、まだはっきりとした結論は出ていない」(梁教授)と指摘した。また梁教授は、「横浜市立大学附属病院を中心に、重度のCOVID-19患者の血中の抗体価がどの程度上昇したか検証している。中には、抗体価が高いにもかかわらず、中和抗体が上昇しない症例もあり、重症化にADEが関わっているかどうか検証を進めている。結果が得られ次第、報告する予定」と明かした。