(画像:123RF)

 米Gilead Sciences社は、2020年6月29日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬レムデシビルについて、世界の先進国政府向けの価格を決定したと発表した。1バイアル当たり390ドルで、現在行われている治療では5日間で6バイアル投与されるため、患者1人当たりの価格は2340ドルとなる。同社の会長兼CEOのDaniel O’Day氏が公開書簡で経緯などを明らかにした。

 価格を一律に設定したのは、国別に交渉する必要性を除外し、世界の緊急の要望に応え、広範かつ公平な提供を確実に行うため。今回の価格は、レムデシビルが承認され、公的保険で使用される先進国政府に向けたもので、先進国でも購買力が低い国には入手可能なレベルまで割り引いた価格としている。

 レムデシビルは、Gilead社がエボラ出血熱に対する治療薬として開発していた抗ウイルス薬で、ウイルスのRNAポリメラーゼを阻害する作用を持つ。COVID-19に対するレムデシビルの効果は複数の臨床試験で確認され、米国では緊急使用許可(EUA)、日本では特例承認を得ている。

 パンデミックの中で、この新規薬剤にどのように価格を付けるかは大きな注目を集めていた。O’Day氏らは、レムデシビルの価格設定に伴う大きな責任と透明性が必要であることを感じ、慎重に、時間と議論を重ねた結果、設定した価格とその経緯を公表する用意ができたとしている。

 Gilead社は、レムデシビルに関する全ての活動と同様に、価格設定についても、できる限り多くの患者を、できる限り迅速に、最も信頼できる方法で救うことを目指したとしている。共同研究から安全性と有効性の答えを早急に見いだし、製造規模を拡大し、6月末までレムデシビルを無償提供したことまで、同社が目指す方向は一貫している。Gilead社は、おのおののケースで異なるニーズを理解し、パンデミックという特殊な環境を考慮するとしている。同社はレムデシビルを無償提供してきた期間から有償提供へ移行するが、基本方針は変えないという。

 通常の環境であれば、薬価はその薬がもたらす価値によって決定される。COVID-19で入院中の患者を対象とした米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)主導の臨床試験の最初の結果から、レムデシビルは回復までの期間を平均で4日間短縮することが示された。米国の例を取ると、早期の退院が可能になれば、患者1人当たり約1万2000ドルの医療費が削減できる。医療制度だけでもこのような即時の節約が考えられ、レミデシビルがもたらす価値が推測される。

 米国内でも、世界の先進国政府向けの価格と同じ1バイアル390ドルで提供されるが、同国の医療制度から、民間保険の加入者向けの価格は1バイアル520ドルとなる見込みだ。

 Gilead社は米保健福祉省(HHS)と契約を結んでおり、HHSと各州は、病院へのレムデシビルの配分の管理を9月末まで継続する。この期間の終了後、供給が順調に行われれば、HHSは配分の管理には関与しない。

 発展途上国では、医療資源、インフラ、経済の状況が大きく異なるため、Gilead社はジェネリック医薬品メーカーと契約を結び、低価格で提供することとしている。このような対応は、世界の全ての国で治療が受けられることを確実にするためのものである。

 Gilead社は、様々な方法でこのパンデミックにおける治療の可能性を追求していくとしている。COVID-19の経過におけるより早期の治療、外来での治療、吸入薬、追加の患者群、他の治療との併用なども評価していく。同社は、世界の臨床試験からデータをさらに蓄積し、多くの追加の臨床試験を開始し、時間の経過とともに変わるレムデシビルの全ての価値について解明していくとしている。また同社は、世界の高い需要を満たすため、供給の増加にも努める。Gilead社は、2020年末までにレムデシビルの開発と製造への投資額が米国内で10億ドルを超えると見ており、2021年およびその後も貢献を続けるとしている。

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