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左から、本庶氏、柳井氏、山中氏

 「ユニクロ」などのブランドで知られるファーストリテイリングの会長兼社長の柳井正氏は2020年6月24日、個人として京都大学に100億円を寄付すると発表。京都大で本庶佑氏、山中伸哉氏と共に会見を行い、寄付の趣旨などを説明した。

 本庶氏に関しては京都大学基金「柳井基金」を設置して、PD1阻害がん免疫療法に対する研究を助成する。期間は2020年4月22日から2030年4月21日の10年間で、毎年5億円、総額50億円を寄付する。寄付は2020年4月に、本庶氏をセンター長として設立された医学研究科附属がん免疫総合研究センター(CCII)におけるがん免疫治療に関する研究に充当する。

 CCIIは2020年4月に4人の教員で発足したが、本庶氏は、最終的に基礎系で、がん免疫細胞制御部門、がん免疫多細胞系システム制御部門、高次統御システム間制御部門の3つ。臨床系で、がん免疫最適治療部門、臨床がん免疫薬効薬理部門、がん免疫生体バイオマーカー開発部門の3つの計6部門とする計画だ。京都大の敷地内に、延床面積8800m2のセンターを建設する。本庶氏はセンターでの研究で、抗PD1抗体が効かない患者の原因解明、抗PD1抗体の有効性バイオマーカーの開発、副作用のメカニズム解明などの研究を行う計画。柳井基金を得ることによって、メタボライト解析室、バイオインフォマティクス室、京大病院バイオバンクを開設するとともに、必要に応じて教員、研究員、支援員の措置を行うとしている。

 山中氏に関しては、京都大学iPS細胞研究所が、京都大学医学部附属病院、京都市、大阪市立大学大学院医学研究科、大阪府と連携して行っている新型コロナウイルス研究プロジェクトに5億円、4月に活動を開始した京都大学iPS細胞研究財団に45億円を寄付する。

 新型コロナのプロジェクトは2020年5月1日から2023年3月31日までの期間で、3つのプロジェクトを進める。1つは感染して回復した人の細胞からiPS細胞を作製し、肺オルガノイドや心筋細胞に分化誘導した上でウイルスを感染させ、症状を再現させて解析し、重症度が違う理由や人種差などの解明を目指すというもの。2つ目は検査体制の拡充と疫学調査で、大阪府や大阪市立大と連携して、医療従事者や患者コホートなどに定期的に抗体検査を提供し、感染状況のサーベイランスを行う。3つ目はワクチンの開発で、遺伝子治療向けに研究してきたウイルス様粒子がワクチンとしても有用とみられることから、大阪市立大と協力して研究を行う。

 一方、iPS細胞研究財団に関しては、2021年度から毎年5億円ずつ9年間寄付を受け、「myiPS細胞プロジェクト」を進める。myiPS細胞プロジェクトは、現在1ドナー当たり4000万円のコストをかけ、アイソレーターを用いて年間3つ程度のiPS細胞しか作製できないところを、閉鎖型の自動培養装置を用いて年間1000のiPS細胞を、1ドナー当たり100万円のコストで作製することを目指したもので、2025年3月の大阪万博で展示することを目標としている。これまでiPS細胞ストックとして、日本人の40%をカバーするHLA型のiPS細胞を作製した他、ゲノム編集技術によってHLAを破壊したiPS細胞の研究も行ってきたが、myiPS細胞プロジェクトによってiPS細胞を低コストで多人数分作製できるようにすることで、iPS細胞による自家移植を行えるようにすることを狙う。

 今回、柳井氏が本庶氏、山中氏への寄付を決めたのは以下のような経緯だ。柳井氏と高校の同窓でもある本庶氏が、2019年4月にファーストリテイリングのイベントで対談した際に、柳井氏に寄付を要請。その後、柳井氏から山中氏に連絡をしたところ、山中氏からも寄付を要請され、同額を両氏に寄付することにした。会見で、今後他の研究者にも寄付する可能性を問われた柳井氏は、「多数来られても困る」と否定した。

 本庶氏、山中氏に寄付することにした理由について柳井氏は、「本庶先生の研究は人類のためになると思っている。がんは死因の第1位だが、まだ分かっていないことが多い。がん免疫療法は今後、本物になると思い、寄付の要請を喜んでお受けした。山中氏に対しては、以前から尊敬していて、何かできないかと思ってこちらから連絡した」などと語った。

 本庶氏はこれまでにも京都大に「本庶佑有志基金」を設けて寄付を募ってきた。有志基金で寄付を受けるのではなく、別の形を取った理由を本庶氏は、「今回の柳井氏の寄付は、CCIIでの研究を対象にしたもので、研究者を目指す若手人材に対し、安定した地位と研究資金を提供することを目的とした有志基金とは目的が異なる」と説明した。

 柳井氏は「目的がはっきりしたものでないと寄付などできない。がんという人類の課題を解決する研究だったから寄付した」などと語った。

 また、iPS細胞研究財団では、iPS細胞ストックの民間企業などに提供する事業を手掛けるが、「事業化によって自立するのは無理なのか。今後も寄付金などは必要なのか」という質問に対して山中氏は、「競争相手は米国のベンチャー企業であり、あっという間にすごい資金調達をするし、人材も集まる。日本で対抗するには寄付金も必要だ」などと語った。

 本庶氏は柳井基金を研究に利用する意義について、「国費・運営費は年度区切りで繰り越しができないのに対して、年をまたぐ分割払いなど柔軟に利用できる。10年間の長期展望を持って活用できる」などと説明。山中氏も、「国費は年度をまたぐことができない他、使途も限定される。今回のようなお金は研究組織を運営する上で大変ありがたい。今回も、最初は50億円をiPS細胞研究財団に寄付してもらう予定だったが、5億円は新型コロナの研究に使いたいと申し入れると、即決で変更できた」などと語り、研究費の柔軟な使用ができる利点を強調した。