(画像:123RF)
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 厚生労働省は、2020年6月16日、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する抗体の保有状況を把握するため、東京都と大阪府、宮城県で実施した抗体保有調査の結果、大半の人が抗体を保有していないことが分かったと明らかにした。

 抗体保有調査は、厚労省が結核予防会に委託し、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の累積患者数が多い東京都と大阪府、累積患者数が少ない宮城県において、各都府県の協力を得て実施した。対象は、各都府県の母集団分布と同様の性別、年齢構成となるよう無作為抽出され、参加の同意が得られた被験者、計7950例。内訳は、東京都が1971例、大阪府が2970例、宮城県が3009例だった。

 調査では、結核予防会の関連施設などで採血を行い、血中にSARS-CoV-2に対する抗体があるかどうかを調べた。今回測定に用いられたのは、「米食品医薬品局(FDA)が性能を確認し、緊急使用許可(EUA)を下した抗体検査のうち、国内で入手できたもの」(新型コロナウイルス感染症対策推進本部の担当者)。

 具体的には、米Abbott Laboratories社の、SARS-CoV-2のヌクレオカプシド蛋白質に対するIgGを測定する「Architect SARS-CoV-2 IgG」と、スイスRoche社の、ヌクレオカプシド蛋白質に対するIgGを含む成熟抗体を測定する「Elecsys Anti-SARS-CoV-2」が使われた。いずれも測定には専用装置が必要で、「Architect SARS-CoV-2 IgG」は化学発光免疫測定法、「Elecsys Anti-SARS-CoV-2」は電気化学発光免疫測定法の原理で測定する。なお、参考値として、現在EUAに申請中の米Mokobio Biotechnology社の「SARS-CoV-2 IgM & IgG Quantum Dot Immunoassay」(蛍光免疫測定法)も測定に使われた。

 調査では、Abbott社とRoche社の双方の測定法で陽性と確認された検体のみを陽性と定義した。その結果、東京都の陽性例は1971例中2例で抗体保有率は0.10%、大阪府の陽性例は2970例中5例で抗体保有率は0.17%、宮城県の陽性例は3009例中1例で抗体保有率は0.03%となり、依然として大半の人が抗体を保有していないことが明らかになった。

 また、参考値として、Mokobio Biotechnology社の測定法では、東京都の陽性例は21例で抗体保有率は1.07%、大阪府の陽性例は37例で抗体保有率は1.25%、宮城県の陽性例は36例で抗体保有率は1.20%と、Abbott社とRoche社よりも陽性例が多く検出される傾向があった。

 新型コロナウイルス感染症対策推進本部の担当者は、「単純比較はできないが、相対的な傾向として、米国ニューヨークなどと比べると国内の抗体保有率は低く、過去に感染した人が少ないと推定される」とコメント。ただし、いずれかの測定法で陽性例とされた被験者が、過去にCOVID-19に罹患したことがあるか、濃厚接触者と接触したことがあるか、COVID-19の症状が出たことがあるかなど、臨床情報などは現時点で収集しきれていないという。

 もっとも、今回測定されたIgGや成熟抗体は、「どの程度持続するのか、再感染予防につながるのかどうかは分かっておらず、今後どのように政策に反映するかはまだ分からない」(前出の厚労省の担当者)。

医師法の下、研究用試薬の抗体検査を提供する医療機関が増加中

 現在、国内で承認されたSARS-CoV-2に対する抗体検査向けの診断薬は存在せず、Abbott社やRoche社などを含めていずれも研究用試薬という位置付けだ。ただ国内では、米国でEUAを得るなど一定の評価がなされていない、性能のよく分からない抗体検査が数多く出回っている。

 中でも、イムノクロマト法で測定できる(専用装置を必要としない)簡易抗体検査キットについては、医師法の下、医療機関で数多く提供されているのが実態だ。いずれも自由診療の枠組みで提供されているもので、医療機関のウェブサイトでは、「感染の有無を知ることができる」とか「(一般的には)抗体があることで再感染のリスクが無くなる」などとうたっているところも出ている。

 前出の厚労省の担当者は、承認された診断薬が無いことや、性能がよく分からないものがあるといったことについて、「一般向けや医療機関向けに、情報を周知している。こうした事態については認識しており、省内で議論している」とコメントし、厚労省として問題意識を持っていることを示唆した。