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 ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)と東京都医学総合研究所は、2020年4月から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するmRNAベースのワクチンの開発に向けた共同研究を開始した。iCONM などは、2020年6月4日に記者説明会をオンラインで開催。同ワクチン開発の基盤となるこれまでの研究成果を紹介した。

 iCONMは、公益財団法人川崎市産業振興財団が川崎市と共に整備した研究拠点だ。これまでに、生体適合性の高い高分子から形成されるナノミセルや、mRNAベースのワクチンなどに関する研究に取り組んできた。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)などが持つ1本鎖RNAは、宿主細胞内に侵入した後、複製の過程などで2本鎖RNAの構造を取る。その後、2本鎖RNAを認識した抗原提示細胞が活性化することで、免疫が誘導される。iCONM位髙ラボの内田智士客員研究員は、「免疫細胞は生体内に2本鎖RNAが存在することを異常と感知する。この仕組みを逆手に取って、免疫を強く誘導するmRNAワクチンを開発できると考えた」と説明した。

 内田客員研究員らは、(1)鶏卵蛋白質(OVA)をコードする1本鎖mRNA、(2)OVAの1本鎖mRNAに相補的なRNA鎖を結合させて全長を2本鎖としたmRNA(全長2本鎖mRNA)、(3)ポリA鎖(poly-A tail)の部分のみを2本鎖としたmRNA(部分2本鎖mRNA)──の3種類のmRNAを作製。それぞれを、マウスの免疫細胞に播種して免疫が誘導されるかを確認した。

 その結果、全長2本鎖mRNAや部分2本鎖mRNAは、1本鎖mRNAと比べて、炎症性サイトカインの産生量を増加させた。また、mRNAの翻訳効率(抗原蛋白質の発現量)に関しては、全長2本鎖mRNAでは1本鎖mRNAより翻訳効率が著しく低下したものの、部分2本鎖mRNAでは1本鎖mRNAと同等の翻訳効率を保っていた。内田客員研究員は、「全長2本鎖mRNAは、1本鎖にほどけにくく、翻訳効率が落ちたと考えられる。全長2本鎖mRNAはワクチンには適さないと判断した」と説明する。

 その後、1本鎖mRNAと部分2本鎖mRNAをマウスのリンパ節に投与し、体液性免疫(抗体の産生量)および細胞性免疫(細胞傷害性を示す免疫細胞の数)を比較したところ、いずれも部分2本鎖RNAの方が免疫を強く誘導した。また、ヒトの樹状細胞を用いた研究でも同様の傾向が確認された。これらの結果から、部分2本鎖mRNAをベースとしたワクチンは、1本鎖mRNAベースのワクチンよりも強い免疫を誘導することが示唆された。内田客員研究員によると、その後の研究で、2本鎖にする部位を最適化することで、免疫を誘導する効果が向上したことも確認しているという。

 ただし、mRNAは酵素によって速やかに分解されるため、そのまま体内に投与するのは難しい。そこで同研究では薬物送達システム(DDS)として、iCONMが開発した高分子ミセルを利用する。高分子ミセルは、生体適合性が高いポリエチレングリコール(PEG)と、ポリペプチドから成る共重合体から形成されている。高分子ミセルにmRNAを内包させることで、mRNAの酵素による分解を防ぎ、投与部位から遠い部位までmRNAを送達できると期待される。高分子ミセルは、細胞内にエンドサイトーシスで取り込まれた後、pHの変化に応じて崩壊し、mRNAを放出する。

 海外ではCOVID-19を対象にしたmRNAベースのワクチンの開発が先行しており、その多くはDDSとして脂質ナノ粒子(LNP)を用いている。iCONMの片岡一則センター長は、「我々の高分子ミセルは、LNPと比較して炎症反応を起こしにくい」と説明した。なおiCONMは、部分2本鎖mRNAや、高分子ミセルの関連特許を取得、あるいは出願済みで、「日本発の独自技術として研究開発を進めることができる」(片岡センター長)。

 今後、iCONMと東京都医学総合研究所は、前述の研究成果・基盤技術を基に、COVID-19に対するワクチン開発を本格化する。共同研究では、「iCONMが高分子ミセルの設計や、投与方法の最適化などを担当。東京都医学総合研究所は、SARS-CoV-2由来の蛋白質をコードするmRNAの設計や、遺伝子改変動物やSARS-CoV-2を使用した実験などを担当する」(内田客員研究員)。

 内田客員研究員は、「SARS-CoV-2のスパイク(S)蛋白質を標的とする方向で検討を進めている。ワクチンの投与経路は皮内投与や筋肉内投与、経鼻投与などが考えられる」と説明。また、「mRNAワクチンの設計から、マウスにおける抗体価の確認までを、半年以内には達成できるのではないか」(内田客員研究員)との考えを示した。片岡センター長は、「高分子ミセルに関しては、GMP基準での製造法を確立しているが、将来的に実用化するには企業の協力が必要だ。我々の研究成果を基に設立したアキュルナをはじめ、他の製薬企業などの力を借りて、できる限り早く実用化したい」と意気込んだ。