国立国際医療研究センター(NCGM)は2020年5月29日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する記者向けの勉強会をオンラインで開催。米国立衛生研究所(NIH)傘下の国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が主導するCOVID-19の重症患者に対する国際共同臨床試験(ACTT2、米国の臨床試験データベースの登録番号:NCT04401579)に参加すると発表した。NCGMは、2020年3月末から、NIAID主導のレムデシビルの国際共同試験(ACTT1、NCT04280705)に参加していた。ACTT2では、ACTT1とほぼ同等の試験デザイン(患者の重症度や主要評価項目など)で、レムデシビルとヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬のバリシチニブを併用した際の有効性などを検証する。

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 これまでに実施されたACTT1の対象患者は、(1)胸部X線撮影やCTスキャンなどで浸潤影が認められる、(2)検査時にラ音や断続性ラ音が確認される、(3)酸素飽和度が94%以下、(4)酸素吸入や機械的換気が必要──のうちいずれか1つが認められるなどの条件を満たしたCOVID-19の重度の成人患者だ。全世界約1000例の被験者を、レムデシビルを投与する群と、プラセボを投与する群に均等に割り付けた。被験者の臨床状態(症状の重篤度)は、「入院する必要が無く、活動に制限が無い」状態をカテゴリー1、「死亡」をカテゴリー8とした8段階の尺度で評価。主要評価項目は、症例登録後、カテゴリー1、2、3のいずれかに回復するまでの時間とした。

 ACTT1は、レムデシビル以外の有望な治療薬候補が見つかった場合に、その有効性を検証するための新たな群を追加できるアダプティブデザインを取っている。そこで、ACTT2では、ACTT1とほぼ同等の試験デザインで、バリシチニブをレムデシビルに上乗せした際の有効性を検証する。ただし、ACTT2では体外式膜型人工肺(ECMO)が必要な患者も対象となる他、ACTT1よりも対象患者に関する詳細な除外基準が設けられている。

 バリシチニブは、米Eli Lilly社が関節リウマチ治療薬として開発したJAK阻害薬だ。現在は65カ国以上で承認されており、日本でも「オルミエント」の製品名で販売されている。Lilly社は2020年4月、NIAIDとACTT2を実施することに合意している。

 COVID-19による重症呼吸不全は、サイトカインストームを特徴とする過剰な炎症状態に起因すると考えられており、バリシチニブのJAK1/JAK2阻害を介した抗炎症作用による治療効果が期待されている。NCGM国際感染症センターの大曲貴夫センター長は、「同薬は、宿主細胞内でのウイルスの増殖に重要な役割を果たすNumb関連キナーゼ(NAK)を阻害するという報告もある」と説明。「同薬とレムデシビルの併用によって、相乗効果が得られるのではないか」(大曲センター長)と期待感を示した。

 ACTT2では、被験者をレムデシビルとバリシチニブを併用する群と、レムデシビルとプラセボを併用する群に均等に割り付ける。被験者の臨床状態は、前述した8段階の尺度で評価し、主要評価項目は、症例登録からカテゴリー1、2、3のいずれかに回復するまでの時間(米国の臨床試験データベース)とした。目標症例数は1000例程度で、海外では既に200例以上の被験者が組み入れられているが、「NCGMではまだ登録されておらず、NCGMでの目標症例数も決まっていない」(大曲センター長)。

 説明会では、軽症のCOVID-19患者を対象に、気管支喘息治療薬「オルベスコ」(シクレソニド)の有効性を検証する国内での臨床研究(RACCO試験)の進捗についても説明があった。シクレソニドは吸入ステロイド薬。国立感染症研究所の研究では、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して抗ウイルス活性を持つことが明らかになっている。また2020年3月には神奈川県立病院機構神奈川県立足柄上病院が、COVID-19による肺炎の初期から中期の患者3例に、シクレソニドを使用し、3例とも改善したと報告。NCGMはこれらの報告を踏まえ、2020年3月末からRACCO試験を開始した。

 RACCO試験は、PCR法やLAMP法でSARS-CoV-2が陽性であり、明らかな肺炎が胸部単純写真で確認されないなどの条件を満たした軽症のCOVID-19患者が対象。90例(目標症例数)の被験者を、オルベスコ投与群と対症療法を実施する群に均等に割り付ける。主要評価項目は、オルベスコの投与から7日以内の肺炎の増悪割合としている。2020年5月27日時点で、国内21施設から26例が登録されており、登録期間は9月30日までの予定だ。

 他にもNCGMは、COVID-19を発症し、その後回復した人(回復期患者)の血漿をCOVID-19患者に投与する臨床研究も計画している。同センターの忽那賢志国際感染症対策室医長によると、同臨床研究は、血漿を回復期患者から採取する研究と、得られた血漿を重症患者に投与する研究の2つに分かれているという。「現在は、回復期患者から血漿(血液)を回収する研究が進行中で、これまでに4人の回復期患者から血漿を採取した。血漿を重症患者に投与する研究は、今後、倫理委員会の承認に向けた手続きを進めるので、目標症例数など詳細は検討中」と説明した。

NIAID主導のレムデシビルの臨床試験、NCGMからは15例の登録

 説明会ではACTT1の暫定的なデータ解析の結果について説明があった。ACTT1の対象は、(1)胸部X線撮影やCTスキャンなどで浸潤影が認められる、(2)検査時にラ音や断続性ラ音が確認される、(3)酸素飽和度が94%以下、(4)酸素吸入や機械的換気が必要──のいずれか1つが認められるなどの条件を満たしたCOVID-19の重症患者。ACTT1には全世界から60以上の医療機関が参加し、合計1063例(データ解析の対象となったのは1059例)が組み入れられた。そのうちNCGMが登録したのは15症例だった。

 ACTT1では、被験者をレムデシビル(初日に200mgを静脈内投与した後、維持用量として1日1回100mgを最長10日間)を静注する群(n=538)と、同スケジュールでプラセボ(偽薬)を投与する群(n=521)に割り付けた。被験者の臨床状態は8段階の尺度で評価し、主要評価項目は、症例登録後、カテゴリー1、2、3のいずれかに回復するまでの時間とした。

 ACTT1に関する暫定的なデータ解析の結果、レムデシビル投与群は、プラセボ群と比較して、回復までの期間が31%短縮された(p <0.001)。また、回復までの期間の中央値は、レムデシビル投与群で11日間、プラセボ群では15日間だった。また試験開始から14日目までの死亡率について、Kaplan-Meier法を用いた推定値は、レムデシビル投与群が7.1%、プラセボ群が11.9%で有意差は認められなかった。また、重篤な有害事象の発生率でも両群に有意差は無かった。

 大曲センター長は、「ACTT1では、全ての被験者で試験開始から29日目までの追加観察も終了しており、結果を精査している段階だ。最終的な結果について論文としてまとめる予定」と説明した。