日本医療研究開発機構(AMED)の三島良直理事長は2020年5月15日、政府の健康・医療戦略推進専門調査会で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策に関するAMEDの取り組みについて報告した。15分程度の検出時間でPCRによるウイルス検出が可能なキットの開発や抗原検査が実現したことなどが報告された他、100億円の補正予算で実施するワクチンの開発の公募プロジェクトを5月下旬に選定することなどを説明した。

 AMEDのCOVID-19に関する最近の取り組みを整理した。1月31日、新型コロナウイルスに関する国際共同声明に署名した。声明では、学術誌は新型コロナウイルスに関係する研究内容についてアクセスフリーとし、研究論文の提出前データや前刷りの共有は学術誌での出版に先駆けた公表と見なさないことや、研究成果の公開、論文投稿時点での世界保健機関(WHO)への共有などを盛り込んでいる。

 また、米国のKevin Droegemeier大統領府科学技術政策局長の呼び掛けで3月初めから週1回程度開催している、新型コロナウイルスへの対応に関する電話会議に出席し、WHOデータベースなどへの論文・データの迅速な公表を呼び掛けるレターを共同発出した他、検査方法や治療薬の開発状況などについて意見交換を実施した。4月30日にはG7科学リーダー会合に出席し、COVID-19に関する科学技術についての意見交換を行い、国際連携の重要性を確認した。

 研究開発に関しては、2月13日に総額4.6億円、3月10日に総額28.1億円、4月17日に総額32.5億円、4月30日に総額469億円の予算を投じてきた。

 COVID-19の分子疫学・病態解明では、ウイルスの伝播経路、感染メカニズム、重症化メカニズムを追跡するための研究を支援した。国内分離株(562人)とウイルスのゲノムを公開されている世界各地の分離株(4511人)を比較したところ、ダイヤモンドプリンセス号や北海道の初期国内クラスターは武漢由来のウイルスで、3月以降に増加した国内流行はヨーロッパからの帰国者由来のウイルスであることが分かった。

 診断法・検査機器開発に関しては、新型コロナウイルス検査キットの開発などを行い、一部は保険収載された。具体的には、15分程度(前処理時間を除く)でPCR検出可能な機器GeneSoC(キョーリン製薬)の性能評価を行い、3月18日には保険収載された。また簡便で迅速にウイルスを検出できる抗原検査キットを富士レビオが開発し、5月13日に承認された。横浜市立大学は東ソーと連携した検査のハイスループット化と自動化技術の開発を行っている。日本感染症学会の研究では、海外で市販されている検査キット4種の性能評価のための予備的検討を行った。これらはCOVID-19の診断には活用することは推奨できず、疫学調査などへの活用方法が示唆されるものの、今後さらに詳細な検討が必要だという考えが示されている。

 治療薬開発では、既承認薬からCOVID-19への適用拡大を目指すため、創薬等先端技術支援基盤プラットフォーム(BINDS事業)でインシリコスクリーニングを行い、既存薬データベースの約8000化合物から118のヒット化合物を同定した。ネルフィナビルとセファランチンの変容による相乗的な抗ウイルス活性などを見いだした。また、「アビガン」(ファビピラビル)と「オルベスコ」(シクレソニド)の臨床研究を進めている他、創薬研究の公募も6月に開始する。

 治療機器開発では、人工心肺装置(ECMO)が連続6時間程度しか使用できないため、国立循環器病研究センターや泉工医科工業などが連続使用時間を延ばす技術開発を行っている。またウイルス等感染症対策技術開発事業で、感染症対策に資する研究課題を公募したところ113件の応募があり、6月にも研究開発を開始する。

 ワクチン開発では、進行・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業で、国立感染症研究所の長谷川秀樹インフルエンザウイルス研究センター長の組換え蛋白質を抗原とするワクチンの開発に関する研究、東京大学医科学研究所の河岡義裕教授のmRNA技術を応用したワクチンや関連技術基盤の開発に関する研究を支援(4.6億円)する。また、COVID-19に対するワクチン開発事業(100億円、補正予算)について公募を実施し、5月下旬に課題を選定し支援を開始する。

 AMEDはまた、今後に向けて新たな感染症流行に即応できるよう機器を整備した。BSL-3施設とその付属施設にMRI、マイクロCT、2光子顕微鏡、次世代シーケンサー、生体分子間相互作用解析装置などを導入した他、病原体解析に対応できるクライオ電子顕微鏡を、京都大学ウイルス・再生医科学研究所と北海道大学人獣共通感染症リサーチセンターに設置した。また医薬基盤研究所と大阪大学微生物病研究所にヒトに対する未知の病原性解析、挙動把握のための霊長類による感染実験の基盤を構築する。

 また、国際的な協力を目的として、感染症研究国際展開戦略プログラム(J-GRID)のアジア地域の拠点(ベトナム、フィリピン、中国、タイ、ミャンマー、インドネシア)に対して、疫学、ゲノム解析、予防・診断・治療法に関する基盤的技術の確立のため、追加支援を行う。また、治療薬等の開発・供給体制の強化要請に対応するため、アジア地域における臨床研究・治験のネットワーク(臨床研究プラットフォーム)をハード・ソフト両面から日本が中核となって構築する。さらに、感染症研究における倫理的・法的・社会的課題(ELSI)やコミュニケーションの在り方に関する調査を実施する。

 三島理事長は今後のAMEDの方針について、「医療分野の研究開発は医学、薬学にとどまらず、理学・工学、そして統計学・情報学、さらに社会科学・心理学、人間行動学など幅広い学問分野を背景に進められるべきであり、JST研究開発センター(CRDS)やNEDO技術戦略研究センター(TSC)などの科学技術系シンクタンクとの連携という観点からも、新しい視野を持ってマネジメントに取り組みたい」とした。

 日経バイオテクと日経メディカルでは、2020年5月30日(土)10:00~12:30に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)征圧への道」と題するオンラインセミナーを実施します。医療崩壊を防ぎながら、経済活動を速やかに再開するのはどうしたら良いのか。医療とバイオテクノロジーの専門誌記者がCOVID-19治療薬やワクチンの開発動向を踏まえながら、抗体検査など最新の検査技術についても解説します。当日は、米シリコンバレーから日経BPシリコンバレー支局長の市嶋洋平や、Stanford大学の西村俊彦ディレクター(Stanford Laboratory for Drug, Device Development & Regulatory Science:SLDDDRS)もオンラインで生出演し、現地の最新情報も伝えていただく予定です。

会場  Zoomを使ったウェブ配信セミナー
受講料 2000円(税別)
定員 500名(上限)
主催 日経メディカル、日経バイオテク
申し込みはhttps://www.nikkeibp.co.jp/seminar/atcl/med/200530/