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表1 厚生労働省が抗体検査の性能評価の研究結果として公表した資料
日経バイオテク×日経メディカル共催 緊急オンラインセミナー
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)征圧への道
2020年 5月 30日(土) 10:00~12:30
https://www.nikkeibp.co.jp/seminar/atcl/med/200530/

 厚生労働省は、2020年5月15日、日本医療研究開発機構(AMED)の研究班が日本赤十字社の協力を得て取りまとめた「抗体検査キットの性能評価」の研究結果を公表した(表1)。しかし、今回結果が公表された性能評価の研究については、複数の業界関係者から「そもそも研究のデザインからしておかしいのでは」と根本的な指摘が幾つも出ている。

「性能については、なかなか一概には判断できないことが分かった」

 まず、公表された「抗体検査キットの性能評価」の研究結果について振り返りたい。厚労省が公表した結果によれば、今回研究で使用された抗体検査は、A社からE社まで5社のキットや試薬だ。うち、4社は、イムノクロマト法(ICA法)を使って、新型コロナウイルスに対する抗体の有無を調べる定性のキットであり、1社は、化学発光免疫測定法(CLIA法)を使って、新型コロナウイルスに対する抗体の有無を調べる定性の試薬だった。いずれも、社名は開示されていない。

 研究対象となったのは、2020年4月に献血に訪れた、東京都内の献血者500例と東北6県の献血者500例。それぞれの献血時に検査に回した残りの血液を用いて抗体検査を実施した。また、対照群(陰性の検体)として、新型コロナウイルスが出現する前、2019年1月から3月に献血に訪れた、関東甲信越の献血者500例の残余血液を用いた抗体検査も行われた。ちなみに、計1500例を対象に抗体検査が実施されたのはC社とE社の2社のみで、残りのA社、B社、D社の3社は東京都内の献血者のうち45例、東北6県の献血者のうち45例、計90例について抗体検査が実施された。

 その結果、計1500例を対象に実施された、C社の抗体検査では、東京都内の500例のうち2例、東北6県の500例のうち1例、2019年の500例のうち1例が陽性となった(検体番号のaとa'、a"には関係は無い)。同じく計1500例を対象に実施された
、E社の抗体検査では、東京都内の500例のうち2例、東北6県の500例のうち1例、2019年の500例のうち2例が陽性となった。また、計90例を対象に実施されたA社、B社の抗体検査では、東京都内の45例のうち1例のみが陽性になった。D社の抗体検査では陽性は出なかった。

 今回の結果について、厚労省は東京都内では、最大3例の0.6%(検体番号のaとbとcを陽性と捉える)が、東北6県では、最大2例の0.4%が陽性であったと説明(表1の下)。その上で、新型コロナウイルスが存在しなかった2019年の検体から出た陽性は偽陽性であることから、2020年の結果にも偽陽性が含まれる可能性が高いとしている。本誌の取材に対して、厚労省健康局結核感染症課の担当者は「性能については、なかなか一概には判断できないことが分かった」と話していた。

 言い換えれば、「抗体検査キットの性能評価」を行った結果、「性能には課題があると分かった」というところだろうか。ただ、今回の研究については、複数の業界関係者から「そもそも研究のデザインからしておかしいのでは」と根本的な指摘が幾つも出ている。

「性能評価なのに性能が評価されていない」「献血者では結果にバイアス」

 1点目は、「性能評価と言いながら、抗体検査の性能が評価されていない」という指摘だ。

 抗体検査の性能の評価指標には、「感度」と「特異度」がある。そして現状、抗体検査の感度は、陽性(だと考えられる)検体、具体的には、直近にPCR検査で確定診断され、新型コロナウイルスに感染したことが明確な患者の発症後の血液を用いて、「陽性」だと判定できるかで評価されている。また、抗体検査の特異度は、新型コロナウイルスが流行する前など感染していないことが明確なヒトの血液を用いて「陰性」だと判定できるかで評価されている。

 しかし、今回の研究で用いられた抗体検査については、理由は不明だが、患者の発症後の血液などを用いた感度の評価は行われていない(特異度の評価は、2019年の検体を用いて可能)。厚労省健康局結核感染症課の担当者も、「それぞれの企業が収集した感度や特異度のデータが、製品情報などに掲載されている」として、公表された結果が全てであり、別途感度の評価などは行っていないと認めている。つまり、「今回の研究は、性能評価と言いながら、感度を評価しておらず、抗体検査キットの性能を評価するデザインになっていない」(ある業界関係者)ということだ。

 2点目は、「抗体検査の検体に献血者の血液を用いるのは適切ではないのでは」という指摘だ。

 今回の研究結果から、「東京都で0.6%、東北6県で0.4%が陽性と判定された」といった一部報道も見られた。しかし、「献血に行こうという人は日ごろから健康に気を使っている。なので、仮に感度や特異度が認められた抗体検査を用いて、陽性者が数%と出たところで、それは、東京都内の市中感染の状況を表しているとは言えない」(ある業界関係者)。別の業界関係者も、「そもそも抗体検査の対象は、一定の地域から無作為抽出しないとバイアスがかかって意味が無い」と指摘する。

 結局、今回の研究結果からは、「(献血者が対象ではあるが)思っている以上に、抗体保有率が低そうだということが示唆されたので、より大規模な検体が必要だということになった」(厚労省健康局結核感染症課の担当者)という。厚労省は、2020年6月にも、東京、大阪、宮城などで1万例を対象に抗体検査を実施する方針だ。ただ、その際に、どの抗体検査を使うのかについて、現時点では未定。対象者の選び方など、研究デザインも明らかになっていない。業界関係者からは「性能が認められた抗体検査を用いて、一定の地域から無作為抽出するなどして対象者を選別して実施すべきだろう」という意見が出ている。

 日経バイオテクと日経メディカルでは、2020年5月30日(土)10:00~12:30に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)征圧への道」と題するオンラインセミナーを実施します。医療崩壊を防ぎながら、経済活動を速やかに再開するのはどうしたら良いのか。医療とバイオテクノロジーの専門誌記者がCOVID-19治療薬やワクチンの開発動向を踏まえながら、抗体検査など最新の検査技術についても解説します。当日は、米シリコンバレーから日経BPシリコンバレー支局長の市嶋洋平や、Stanford大学の西村俊彦ディレクター(Stanford Laboratory for Drug, Device Development & Regulatory Science:SLDDDRS)もオンラインで生出演し、現地の最新情報も伝えていただく予定です。

会場  Zoomを使ったウェブ配信セミナー
受講料 2000円(税別)
定員 500名(上限)
主催 日経メディカル、日経バイオテク
申し込みはhttps://www.nikkeibp.co.jp/seminar/atcl/med/200530/