(画像 :123RF)

 臨床検査専門医や臨床検査技師などから構成される日本臨床検査医学会が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関して情報発信を続けている。2020年2月には、新型コロナウイルスに関するアドホック委員会を発足させ、PCR検査の実施が進まない背景などについて調査を実施し、複数の理由があることを指摘している。同委員会の委員長を務める、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・診断学分野の栁原克紀教授が、2020年5月8日、本誌の取材に応じた。

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日本臨床検査医学会では、2020年2月、新型コロナウイルスに関するアドホック委員会を立ち上げた。

 COVID-19のPCR検査の拡充が進まなかったことが背景にある。COVID-19に対しては、症状に基づいて症候診断するのが難しい。臨床検査が大きな役割を果たすことが分かってきたことから、臨床検査医学会として、どう対応するか検討した。正しい意見・情報を発信しつつ、厚生労働省や感染症の関連学会と協力するため、委員会を立ち上げた。

 PCR検査については、臨床検査医学会としては、検査数を増やすのが大切だという認識は持っている。と同時に、遺伝子関連検査については、医療法で精度管理など様々なルールが定められており、それらを無視して増やすことはできないと考えている。

新型コロナウイルスに関するアドホック委員会の委員長を務める、長崎大学大学院医歯薬学総合研究科病態解析・診断学分野の栁原克紀教授

日本臨床検査医学会では、PCR検査の実施が進まない背景などについて、学会員に情報収集や意見聴取を行い、2020年4月13日付で「SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)核酸検出検査の体制の課題対応について」との報告書を公表している。PCR検査が増えない理由について、どう分析しているか。

 PCR検査を増やす方針については、学会員も同意している。それでも実施数が増えない理由は、(1)検体採取が、どの医療機関でもできるわけではない、(2)機器や試薬が不足している、(3)経験や知識のある人材が限られる――という、大きく3つがあると考えている。検体の搬送などの問題もあるが、機器や試薬の不足、人材が限られるといった問題が大きい。

 (1)の検体採取については、最近では、全国で、ドライブスルー方式などで検体採取を専門に行うセンター(PCR検査センター)ができ、専従の医師が検体採取を行っており、状況はだいぶ改善してきた。さらに今後は、検体として唾液(咳嗽後唾液)を用いるPCR検査が、国内でも認められる見通しだと聞く。そうなれば、感染が疑われる患者が自分自身で検体を採取できるようになり、(1)の検体採取の問題は改善されると期待できる。これまでの論文から、鼻咽頭拭い液などに比べ、唾液中のウイルスの量は少ないと考えられるが、PCR検査をする分には十分な量だといった論文も出ている。自宅で、咳嗽後唾液を自己採取することも考えられる。

 (2)の機器や試薬の不足だが、海外の試薬については、欧州や米国で流行していると国内に入ってきにくい。欧州、米国での流行が落ち着けば、もう少し入ってくるだろうと想定している。

 (3)の人材については、臨床検査技師の育成が必要になるが、それには時間がかかる。かといって、知識や経験の無い人材が検査をしてずさんな検査結果を出すと問題なので、自動化などを活用しつつ対応していくことではないかと思っている。

 個人的にも、PCR検査は一貫して増やすべきだとは考えている。もし、増加に伴って精度管理などの問題が生じたら、それはそれで対応すればいい。偽陰性も偽陽性もある程度は出るが、感染拡大を防止するためには、感染者の活動を止めることが重要だ。

鼻咽頭拭い液などから新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のゲノム(RNA)を検出するPCR検査(遺伝子検査)、鼻咽頭拭い液などからSARS-CoV-2の蛋白質を検出する抗原検査、血液からSARS-CoV-2に対する抗体(IgGやIgM)を検出する抗体検査が相次いで開発されている。抗原検査、抗体検査の位置付けについて聞きたい。

 抗原検査については、既に国内で承認申請中の企業があり、近々承認されると思う。一般的に、抗原検査の感度は70%ぐらいではないかと考えられるので、PCR検査に比べると若干劣るだろう。逆に言うと、感染者の30%ぐらいは取りこぼす可能性がある。ただ、抗原検査で陽性が示されれば、その感染者の検体中にはウイルス量が多いという意味でもある。

 これまでの研究から、ウイルス量が一定以上多い感染者が重症化しやすく、感染させやすいことが分かっており、抗原検査によって総合的にリスクが高い感染者を捕まえられると考えられる。抗原検査は、鼻咽頭拭い液など検体の採取ができれば、診療所などで簡易迅速検査(Point Of Care Testing:POCT)として実施できるので、その点でも役に立つ。

 ただ、抗原検査で陰性判定はできないだろう。PCR検査の前段階で、一次スクリーニングとして、陽性判定に使うという位置付けではないか。それによって、PCR検査を減らせる可能性もある。

 抗体検査については、疫学調査の意義が大きいと考えられる。これまでに幾つかの地域でSARS-CoV-2の抗体検査が実施されているが、それらのデータからは、PCR検査で診断された感染者よりも、実際の感染者が10倍、20倍いる可能性が示唆されている。現在、国内のCOVID-19の致死率は4%程度(志望者数を感染者数で割り出した数字)だが、感染者が10倍、20倍いるとなれば致死率が10分の1、20分の1になる。抗体検査によって、ウイルスの全貌が分かるメリットがある。

 また、抗体を持っていれば再感染しにくいということが明確になっていることが前提だが、一般的に70%程度が感染すれば集団免疫が確立されるので、抗体検査によって集団免疫の状況を調べることもできる。

 もっとも、抗体検査で陽性となったからといって、それが「免疫パスポート(Immunity passports)」になるかどうかについては、難しいところだ。抗体検査で検出される抗体が、意味のある免疫なのかどうかは、まだ分からない。ただ、我々は、感染後、回復した患者の血漿とウイルス(SARS-CoV-2)を用いて、実験(プラークアッセイ)を行ったところ、中和抗体ができることは確認済みだ(検出系が異なるので、抗体検査で検出できるかどうかは別)。

SARS-CoV-2の感染者では、SARS-CoV-2に対するIgM、IgGがいつ頃から増えてくると考えられているか。日本臨床検査医学会新型コロナウイルスに関するアドホック委員会が2020年4月17日に公表した「COVID-19 における抗体検査についての基本的な考え方」では、フィンランドからの症例報告をベースに、IgM、IgGともに、9日目に初めて検出されたとしている。

 これまでの論文や報告などを総合すると、IgGは、発症から20日後には、感染者の90%以上で上昇することから、既感染の判断には使えるのではないか(意味のある免疫かどうかは別)。

 一方で、発症後早期に上がってくるIgMによって、早期診断ができるかどうかは1つの鍵になるだろう。通常の感染症では、重症化する感染者はすぐ悪くなるので、IgMが上昇する頃には進行しているが、COVID-19の感染者では発症から1週間後と、重症化のタイミングが遅い傾向がある。もし、重症化する頃にIgMが検出できる抗体検査が開発されれば、早期診断にも利用できるかもしれない。

 もっとも、研究者の中には、SARS-CoV-2に対してはIgMが産生されにくいのではないかという意見もある。単に検出系が悪いとか、IgMの量が少な過ぎるとかいうことかもしれないが、ひょっとすると、何らかの理由でIgMが出来にくいという見方もある。この辺りについては、さらなる研究が必要だ。

SARS-CoV-2の抗体検査は、様々な国の企業・研究機関が開発を進めているが、分析性能が分からないものが多い。

 今は、玉石混交な状況だ。欧州では、抗体検査を輸入後、品質の悪さから返品するところも出てきている。個々の抗体検査の性能が明らかになり、大手企業の抗体検査などが出てくれば状況が改善されるのではないか。

抗体検査に求められる感度・特異度は。

 IgGを基に感染したかどうかを調べる目的では、感度は100%近く必要だろう。IgMに基づく早期診断の目的であれば、感度は60%、70%でもいいかもしれないが。

抗体検査の評価などを行う予定はあるか。

 長崎でも、色々検討を進めようと考えている。その際は、抗体検査の対象者について、過去に症状が全く出ていないかどうか、濃厚接触者との接触歴が無いかなど、病歴や接触歴の情報を併せて収集することが重要だ。

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