イベルメクチンの分子構造(画像:123RF)
日経バイオテク×日経メディカル共催 緊急オンラインセミナー
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)征圧への道
2020年 5月 30日(土) 10:00~12:30
https://www.nikkeibp.co.jp/seminar/atcl/med/200530/

 北里大学は近く、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対する抗寄生虫薬「ストロメクトール」(イベルメクチン)の医師主導治験を開始する。北里大学大村智記念研究所(旧北里生命科学研究所)感染制御研究センターの花木秀明センター長は、本誌(日経バイオテク)の取材に対し、「我々は、in vitroの実験で新型コロナウイルスに対する有効性を確認した。臨床での有効性を科学的に検証する必要があると考え、医師主導治験の開始を決めた」と答えた。具体的な試験デザインなどは今後明らかになるとみられる。

 イベルメクチンは、2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した北里大の大村智特別栄誉教授と米Merck社の共同研究で創製された抗寄生虫薬だ。大村特別栄誉教授は1974年に、土壌中に生息する放線菌が産生する化合物のエバーメクチンが、抗寄生虫作用を持つことを発見した。その後、Merck社が、その誘導体であるイベルメクチンを合成した。イベルメクチンは、寄生虫の神経細胞や筋細胞に存在するグルタミン酸作動性Clチャネルに選択的に結合し、Clに対する細胞膜の透過性を上昇させる。その結果、寄生虫の細胞に過分極が生じ、まひすることで寄生虫が死に至る。家畜動物の寄生虫駆除に用いられる他、ヒトに対しては熱帯地域などで問題となる河川盲目症(オンコセルカ症)の治療などに用いられてきた。河川盲目症は回旋糸状虫という線虫の一種による感染症。目のかゆみ、発疹、瘢痕(はんこん)などを生じ、失明することもある。

 Merck社は1981年にイベルメクチンを動物医薬品として発売。その後87年からはヒト用医薬品として河川盲目症の流行する地域に無償提供している。国内では02年に腸管糞線虫症の効能・効果で承認され、06年に疥癬の適応症が追加された。MSDが製造販売元、マルホが販売元になっている。

 花木センター長によると、「イベルメクチンに関しては、2012年以降、様々なウイルスの増殖(複製)を抑制することが報告されてきた」という。「それらの報告を基に、オーストラリアの研究チームは、2020年4月にイベルメクチンが新型コロナウイルスの増殖を抑制することをin vitroの実験で確認した。北里大の大村智記念研究所でも同様の結果を確認済みだ」(花木センター長)

 また、米Utah大学の研究チームは2020年4月19日に、COVID-19患者に対するイベルメクチンの有効性に関する研究結果を論文発表した。同研究は、2020年1月1日から3月31日までにCOVID-19と診断された患者の観察研究のデータを解析したもの。具体的には、米国、欧州、アジアなどの合計169の病院からのデータを対象に、イベルメクチン(150μg/kgを単回)を投与した群(投与群)と投与していない群(非投与群)の各704例(合計1408例)について、死亡率を比較した。なお両群で、患者の年齢や、性別、人種、重症度などの患者背景はそろえてある。解析の結果、全体の死亡率は非投与群では8.5%であったのに対し、投与群では1.4%であり、死亡率が有意に低下した(p<0.0001)。

 この結果に対し、花木センター長は、「Utah大の研究結果は極めて重要な情報だ。ただし、この研究で利用したのは観察研究のデータであり、情報量も極めて限られている。この研究結果だけでイベルメクチンがCOVID-19に有効かどうかを判断することはできない」と指摘。そこで北里大は、「医師主導治験によって、患者にとってイベルメクチンが本当に有益であるかどうか検証する」(花木センター長)。

 では、もし仮にイベルメクチンが新型コロナウイルスに有効であるとしたら、どのような作用機序が考えられるのか。花木センター長は「コンピューターを利用したシミュレーションでは、イベルメクチンは、新型コロナウイルスのメインプロテアーゼに対する結合親和性が報告されている。メインプロテアーゼは、ウイルスのゲノムから翻訳された蛋白質を切断し、機能させる酵素。そのため、イベルメクチンがメインプロテアーゼを阻害することでウイルスの複製を抑制できると考えられる。また、イベルメクチンは、インポーチン(Importin)という宿主細胞内の蛋白質を阻害することも分かっている。インポーチンは、種々の蛋白質を核内に輸送する機能を持つ蛋白質だ。新型コロナウイルスは、インポーチンを介して宿主細胞の核内に侵入して複製される。そのため、インポーチンにイベルメクチンが結合し、不活化することで、ウイルスの核内への侵入を阻害するのではないかと考えられる」と説明する。

 花木センター長は、医師主導治験の詳細について、「試験デザインなどの詳細は規制当局と相談中」としている。また、「治験薬の確保などに関しては、同薬の販売元であるマルホに相談をしている。医師主導治験によって有効性が確認された場合、同薬の製造販売元であるMSDが承認申請することになるため、MSDとも連絡を取っている」と説明している。

 イベルメクチンは、2020年5月に入って急速に治療薬候補として注目されるようになった。北里研究所の広報担当者は、「5月6日に西村康稔経済再生担当大臣が本学を視察した際に、西村大臣から『安倍首相もイベルメクチンに期待を示している』という趣旨がメディアに向けて伝えられた。またイベルメクチンは、大村特別栄誉教授がノーベル賞を受賞した契機となった医薬品であることも影響し、注目されるようになったのではないか」と話している。いずれにしても、イベルメクチンのCOVID-19に対する有効性に関して、十分なエビデンスは今のところ確立していない。

 日経バイオテクと日経メディカルでは、2020年5月30日(土)10:00~12:30に「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)征圧への道」と題するオンラインセミナーを実施します。医療崩壊を防ぎながら、経済活動を速やかに再開するのはどうしたら良いのか。医療とバイオテクノロジーの専門誌記者がCOVID-19治療薬やワクチンの開発動向を踏まえながら、抗体検査など最新の検査技術についても解説します。当日は、米シリコンバレーから日経BPシリコンバレー支局長の市嶋洋平や、Stanford大学の西村俊彦ディレクター(Stanford Laboratory for Drug, Device Development & Regulatory Science:SLDDDRS)もオンラインで生出演し、現地の最新情報も伝えていただく予定です。

会場  Zoomを使ったウェブ配信セミナー
受講料 2000円(税別)
定員 500名(上限)
主催 日経メディカル、日経バイオテク
申し込みはhttps://www.nikkeibp.co.jp/seminar/atcl/med/200530/
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