COVID-19の収束シナリオとその後の社会、経済について分析する寄稿の第6回⽬は、第4回で紹介した4つの経済回復シナリオをベースに、今後考えられる変化と中長期的な世界観を各シナリオについて考察する。

 図10に、4つの経済回復シナリオに基づき、考えられる社会や生活の変化と、その先にある世界観を整理した。一般市民の移動が制限されることによって、地方都市の活性化やデジタル化が進行する。ただ、移動制限の程度や期間、つまりシナリオの種類によって、行き着く先の世界観は異なると考えられる。

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早期収束でもリモート化が進展

 まず、アップサイドのシナリオについて触れる。これはワクチンの早期開発により感染が収束し、経済がV字回復するシナリオである。この場合、短期的な移動制限により人々の活動の主体がベッドタウンなどの居住都市に移行することで、居住都市のローカルエコノミーが発展すると考えられる。

 移動規制中にECチャネルの拡大や「Zoom飲み」に代表されるオンラインオケージョン(機会)の増加によって、1、2年後の経済回復後もリモートを前提とした活動が一定の割合で残り続けることが想定される。そのため、将来的には居住都市を中心としたデジタル社会が訪れると考えられる。

中長期化で地方分散化・監視社会化に

 次はベースのシナリオを考える。これはワクチン開発に長期間を要し、自然感染による集団免疫獲得によって、3年から5年かけて経済がU字回復するシナリオである。この場合、中期的に断続的な移動制限が前提となるため、大半の経済活動がオンライン化すると考えられる。そのため都市に居住するメリットが少なくなり、物価・地価が安い地方への移住が加速することで、地方分散化が進展すると思われる。企業活動においても、中央集権的な管理体制から分散型にシフトし、各機能で一定の自立性を持った動き方が求められるようになるだろう。

 また、感染拡大防止を目的として行動データや健康状態データを駆使した監視システムが登場すると想定する。もし短期的に収束するのであれば、現在中国で実施されているようなデータに基づく移動規制が受容される可能性は、人権保護の観点から考えると低いだろう。しかし、移動制限が数年間続く場合は、経済活動を再開させるために必要な施策であると国民が理解し、一定の範囲で受容されるようになる可能性が高い。他に、自動化・非接触化サービスの普及、抗ウイルス製品の高付加価値化などの変化が起きると考えられる(図11)。

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 では、ダウンサイド1のシナリオはどうだろうか。免疫の減弱化などが理由で集団免疫が獲得できず、COVID-19との長期的な共存が必要となるシナリオである。この場合、長期的な移動制限が前提となり、その環境下で経済成長を目指す社会システムが構築される。そのため、ベースシナリオよりもさらに地方への移住が促進され、リモートでの活動が前提となると考えられる。対面での接触機会がほとんど無い期間が長期化することにより、仮想現実(VR)技術などを駆使して、対面での接触を代替するサービスが出現する可能性がある。

 また、感染拡大抑制のために、個人の健康状態・行動データが都市の中でリアルタイムに反映されるようになり、感染リスクが随時共有されるような社会となるだろう。例えば、感染リスクが高い人が多く集まる場所はリアルタイムで地図上に反映され、その場所を訪れる際の判断指標となる可能性がある。自動化・非接触化についてもベースシナリオよりもさらに進展し、自動化・非接触化されたサービスや新たな経済活動が生まれていくと考えられる。

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経済破綻による大きな変革も覚悟

 最後に、ダウンサイド2のシナリオを考える。COVID-19の収束前に経済が崩壊してしまうシナリオである。この場合、経済崩壊により失業者が多数出現し、経済的に困窮する貧困層が急増することになる。国家はこれを救済するため、富の大胆な再分配を検討することになり、社会主義的経済への移行が促進されることも可能性として考えられる。いったんこの方向にシフトすると、既存の個人主義における経済成長は望めず、経済成長を目的としないスローライフ生活へシフトしていくことになる。

 以上、中長期的にWithコロナ、Postコロナ時代の世界観がどう変化するかについて述べてきた。次回以降は、各国の中長期的な戦略やグローバル情勢をひもときながら、今後ヘルスケア企業に求められる対応について考察したい。